コラム&こぼれ話

コラムNo.08 遊び場のアクセシビリティ ガイドライン(ADAAG)について

みーんなの公園プロジェクト
矢藤洋子

 アメリカの公園遊具メーカーの商品カタログやウェブサイトなどで、「ADAAG」という言葉を見かけることがあります。「この商品はADAAGの要件を満たしています」「私たちはADAAGに沿った商品開発に努めています」といった具合です。「ADAAG」とはどんなものなのでしょうか。

 1990年に制定されたADA法(障害を持つアメリカ人法)※1は、障害に基づく差別を禁止した公民権法で、障害のある人の社会参加の権利を保障するものです。公共のための施設や交通機関などに障害者の利用を阻むバリアがある場合、ADAに違反する差別とみなされ訴訟の対象にもなるそうです。各施設や設備がADAに適合しているかどうかの判断の拠り所となるのが、具体的で詳細な技術規定や適用範囲を示したADAAG(ADAのアクセシビリティ ガイドライン)※2です。

 1991年、最初に発行されたADAAGは、レストランや医療施設、商業施設、図書館、ホテルなどに関する基準を示した9章で構成されていましたが、その後、交通機関の施設や車両に関する基準のほか、新たな章が追加されています。

 2002年に追加されたレクリエーション施設に関する章の中に、「遊び場のアクセシビリティ ガイドライン」※3が含まれているのですが、コラムの冒頭で触れた「ADAAG」とはこのことです。現在のところ、遊び場のADAAGは司法省の策定を経ておらず、全ての公園に対する法的拘束力はまだありません。しかし遊び場のアクセシビリティに関する明確な基準が示されたことで、ADAに沿った遊具づくりや公園づくりが加速しました。

 ADAAGは、ADAに見合う遊び場をつくるための必要条件を具現化したハードルといえます。
 今まで「障害のある子どもにも利用を広げたい」と思っても、どう改善すればよいのか曖昧で着手しかねていた遊具や公園のつくり手に、具体的な方向性が示されたのです。このガイドラインができて以降、公園で遊べるようになった子どもの数は、広く全米で増加しているはずです。

 一方で、「ひとつのハードルにならうため、どこも似たような遊具ばかりになるのでは?」という懸念や、「ハードルを楽にクリアするために、遊び場の規模が縮小されるケースがある」という批判もあるようです。
 ADAAGはあくまで、障害者の権利を妨げないためのアクセシビリティの必要最低条件を示したものですから、いわば最も低いハードルです。そこを軽やかに越え、さらなる高みを目指して改善を続けていくことが、公園の進化には不可欠となってきます。

 障害者の権利保障というADAの精神を反映したADAAGの中身と、この基準のさらに上を目指す取組みについて、改めて別の回で考えてみたいと思います。

※1)ADA法:Americans with Disabilities Act
※2)ADAAG:ADA Accessibility Guidelines
※3)ADA Accessibility Guidelines for Play Areas(2000年制定)