公園を知る「海外事例」

No.20 進化を続ける背もたれ付きブランコ

アメリカの事例より

 アメリカのUD公園を訪れ、初めて背もたれ付きのブランコを見たのは2004年でした。
  それは日本の特別支援学校で子どもに好評だったシート型ブランコとそっくりの構造。もっともあちらは座椅子などを活用した先生たちのお手製で、教室の天井からロープで吊るして使っていました。それが町の普通の公園にあり、障害のない子どもたちにも人気! 衝撃でした。

 アメリカでは、障害を持つアメリカ人法(ADA法)が制定された1990年頃、すでに障害のある子どもも遊べる公園づくりに向けた取り組みが少しずつ実践されていました。1997年には初の専門NPO Boundless Playgroundが立ち上がり、彼らと遊具メーカーとの協力関係が強化されます。やがて東部を中心にUD公園が徐々に増え始めた、2004年はそんな時期でした。

 あれから9年――アメリカの背もたれ付きブランコには変化が見られます。今回はその試行錯誤の道をたどってみたいと思います。

 こちらが初めて出会った背もたれ付きブランコ!

 ブランコのデザインや利点については、「海外事例No.07」でご紹介しています。じつはこのブランコを見た時、大きな感動を覚えた一方で気になる点もありました。

 まず児童向けブランコ(左の写真)の梁部分を見ると、チェーンが巻きつけられていることがわかります。最初は車いすから移乗しやすいようブランコのシートを低めに設置していたものの、そのままでは足がつっかえて遊びにくいことがわかり、シートを梁に一回転させてチェーンを短くすることで座面の高さを調整したのでしょう(注:安全な利用のため、お勧めできません!)

 もし子どもが自力で車いすからシートに乗り移れれば、親や介助者の負担が減るだけでなく、子ども自身の達成感や自立心が高まります。しかし子どもの体格、さらには体の機能的制限からくるニーズと遊びやすさはまちまち。決まった高さがみんなによいとは限りません。現在では、幼児向けブランコと児童向けブランコでシートの高さを変えるなどの工夫をしたUD公園が見られます。  

 もう一つ気になったのは、体のずり落ちを防ぐ安全ベルト。
 黒いストラップが(いたずらで?)切られた状態のものもあり、幼児向けブランコ(右の写真)では間に合わせのベルトが心許なく結ばれています。もとはベビーカーや車のチャイルドシートにあるような、バックル付きで長さを調節できるベルトが付属していました。ベルトは、自分の力で体幹を支えることが難しい子どもにとっては重要なものです。しかしこうした破損や盗難の恐れ、また不適切な利用により絡まって事故につながる可能性もゼロではないとされ、今では同じブランコをベルトなしで提供しているUD公園もあります。

 ちなみにメーカーが推奨しているのは、ベルトを取り外して公園の管理事務所などで保管しておき、必要な人がその都度借りて使うという方法。ただ、係員が常駐している公園は極めて少ないというのが現実です。

 こちらは、破損・盗難への対抗手段として、金属のチェーン式ベルトが採用されたパターン。

 体を支えるチェーン部分にはビニールのカバーを付けたり、鎖の表面をコーティングしたりして、指などの挟み込みを防ぐ工夫がされています。ただし、これらのチェーンはストラップと違って長さを調節することができません。より安定して体を支えるため、右のブランコでは座面の前方に突起を付けることで、体のずり落ちを防ぐ助けとしています。

 ところでこのシート、チェーンを必要としない子どもたちにとってはどうでしょう?

写真:ブランコエリア。背もたれ付きブランコからチェーンがぶら下がり地面についている

 ジャラジャラとした鎖が邪魔で乗りにくそうにしている子どももいました。また、早く乗りたいのに金具の留め方がわからない小さな女の子から、「これどうすればいいの?」と困り顔で助けを求められたこともあります。 それに留め具から外されたチェーンはだらりとぶら下がり、もしもこの状態で遊ぶと鎖が振り回されて危険が・・・。  

 こうした問題を解決しようと数年前に開発されたのが、プラスチック製の安全バーが付いたブランコ。まるでジェットコースターのシートのようですね。今では複数の大手遊具メーカーから売り出されています。

写真:同タイプのブランコの幼児用。よりずり落ちにくくするため、腹部のバーが追加されている

 それまでのベルトタイプと違って安易な破損や盗難の恐れは減り、体に絡みつく心配もありません。安全バーが不要な人は、バーを後ろに跳ね上げた状態でブランコに乗っていました。

 安全バーをシートに固定する方法は、メーカーによって様々です。 内部にバネが仕込まれたバーの先のカバー部分(ぎざぎざが付いた黄色の部分)をぐっと上にスライドさせてからシートの穴に落とし込む方式(上の2枚の写真)や、座面に付いている黒いゴム製ベルトのボタンホールに、バーの前面に付いた黒い円形の突起をパチンとはめて留める方式(下の2枚の写真)などがありました。

 最近のUD公園ではこうしたタイプのブランコが増えつつありますが、アメリカのユーザーの評価はどうなのでしょう?
 インクルーシブな遊びの擁護者であり、障害を持つ子どもの母親でもあるMara Kaplanさん(障害児のための遊具や遊び場のコンサルタントを行う Let Kids Play! の創設者)にうかがってみました。

「新しいタイプのブランコの最大の欠点は、サイズの融通が利かないこと。これでは、体の小さな子どもにとってはバーが大きすぎて十分に体が支えられないし、反対に体の大きな人にとってはバーがきつすぎるということが起こります。 それでもシート型のブランコが公園にあるというのは、それだけで大きなアドバンテージとなります。もしこれらがなかったら、息子のように障害のある子どもたちはブランコ遊びを体験できないのですから」

 頬に当たる風、勢いよく弧を描くたびに近づく空、重力から解放されこのまま飛び立てそうなワクワク感・・・子どもにとってブランコの楽しさは格別です。

 今、アメリカにはMara Kaplanさんをはじめ、インクルーシブな公園づくりを熱心に支援する個人や専門NPOがたくさん存在します。すでに全国に数百か所あり、さらに増え続けているUD公園からは、こうした人たちの有意義なフィードバックが得られます。
 現に新タイプのブランコでも、幼児用と児童用でシートのサイズやバーのデザインを変えたり、バーを固定する穴を2つ設け、体格に合わせてきつめと緩めが選べるようにしたりする工夫が見られます。また最近では、先ほどの写真のバーの固定方法に改良を加えた新バージョンが登場しています。

 多様なユーザーのあらゆるニーズを満たすことは簡単ではありません。しかし、意義のあることには挑戦する。工夫し、使ってみて、課題を見つけ、改良を重ねる。アメリカの遊具メーカーは、これからもスパイラルアップの歩みを止めることはないでしょう。今後の展開に注目です。

写真:ブランコエリア。新タイプの背もたれる気ブランコと、平たいベルトシートのブランコ、バスケット型の幼児用ブランコが混在する

 ところで日本の子どもたちは、これらのブランコにどんな感想を持つでしょう。
 肢体障害を持つ子どもたちに、オーストラリアやヨーロッパの製品と合わせて数タイプの背もたれ付きブランコシートの写真を見てもらったところ、「何これ!?こんなのあるの?」「すごいね」といった第一声に続き、安全バータイプのシートに対する意見は割れました。「しっかりしてそう」「安定感があっていい」という意見の一方で、「下の1か所だけで留まってるのが不安」「横から落ちそう」「もっとシンプルなのに乗りたい」といった声も。

 また意見を聞く中で、子どもたちがブランコに対していろいろな思いを抱いていることにも、あらためて気づかされました。
 「落ちるんじゃないかって怖いんだ…ブランコなんて乗ったことないから」  「もし公園でブランコに乗れたら、思いっきり高くこいでみたい!」  
 「妹や友達と並んで遊べたら楽しいだろうな」  

 もし実物に乗れたなら、彼らはもっと多くの気づきをいきいきと教えてくれるでしょう。しかし現時点では写真を見て想像するだけ。子どもたちの意見も不安も期待も、宙に浮いたままです。 海外で実績のあるシートを導入するか、オリジナルのシートを開発するか、とにかく日本も意欲的に一歩踏み出す必要があります。そして公園のつくり手と、多様な子どもを含む使い手が協力し、スパイラルアップのらせん階段を上り始めるべきです。

 ブランコ一つから変えられる、子どもたちの未来があります。