公園を知る「海外事例」

No.22 公園訪問inシドニー・オーストラリア(前編)

リヴィズ・プレイス

 オーストラリアに、Touched by OliviaというNPOがあります。娘のOliviaちゃんを難病のため生後8か月で亡くしたPerkins夫妻が、より多くの子どもたちの健康で幸せな人生を援助する目的で2006年に立ち上げた団体です。

 NPOの活動内容は大きく二つあり、一つはOliviaちゃんの抱えていた病気とも関わりがある血管性母斑の研究支援。もう一つは、障害の有無を問わず誰もが一緒に遊べるインクルーシブな遊び場づくりです。彼らがつくった公園はOliviaちゃんの愛称からLivvi’s Placeと名付けられ、ニューサウスウェールズ州を中心に7か所でオープンしています(2014年3月末現在)。

 最初の公園Livvi’s Place Five Dockができたのは2009年。
 場所は、シドニーの中心街から10キロ程西にあるTimbrell Park内です。NPOと地元カナダベイ市が連携し、多くの人や企業の支援を受けて完成しました。ユニークな工夫が施されたこの遊び場には、開園以来多くの子どもや家族連れが訪れていると聞いて、やってきました!

 まずはエントランスから。 遊び場は、閑静な住宅街の広い道路沿いに位置しています。専用の駐車場はなく、車での来訪者は路上に縦列駐車をしていくのですが、遊び場正面の一角にはちゃんと広い乗降スペースが確保されていました。

 これなら、乗り降りに一定のスペースを必要とするリフトやスロープ付きの福祉車両で来る家族連れも安心。スクールバスを使った遠足などにも対応できますね。 ここからは、緑の芝地を貫いて延びる白い舗装ルートが、人々を遊び場へと誘導してくれます。

写真:遊び場入り口のアーチにカラフルで抽象的なオブジェ

 遊び場の出入り口の頭上に、不思議なオブジェがありました。これは、Touched by Oliviaのロゴにも使われている「蝶」をモチーフに制作されたもの。
 平面的な看板ではなく、いくつものカラフルなパーツが傾いたりぶら下がったりした立体的な構造になっているのには理由が・・・。バギーに仰向けの状態でいることが多い重度の障害を持つ子どもも、下から見上げた時「Livvi’sの公園にやってきた!」と楽しく気づけるように、との思いからです。

 さて、遊び場は全体がフェンスで囲われ、出入り口にも特別な工夫があるのですが、それは次回ご紹介するとして、さっそく中を拝見していきましょう!

 遊び場に入ると右側に、くねくねと曲がったアクセシブルな小道が現れました。上から見ると大きな蛇の形をした小道です。その路面には模様とともに、青い四角で囲んだ数字が1から15まで順に書かれています。これらをすごろくのマス目のように使えば、友達とゲームを楽しむこともできますね。

 小道の各カーブにはワープ(近道)できるポイントとして、ネットやロープ渡り、アクセシブルな吊り橋などを配置。いずれも高さが抑えられていて、小さな子どもも安全にチャレンジできます。地面すれすれに見える吊り橋も、思いの外よく揺れて楽しいですよ!(ただし、車いすユーザーが自力で渡りきるには、橋のたるみが少し深すぎるかも)

 草が小道の両側から覆いかぶさるように生えている箇所もあります。これは決して手入れを怠っているわけではなく、手や足で植物に触れながら進むためのポイント。自然に接する機会が得にくい、車いす等の移動補助具を使う子どもたちのためにと設けられました。
 公園内の他の植栽も、長く柔らかい穂を持つものや小さな実をつけるものなどじつに多種多様。あらゆる子どもにとって自然に親しみやすい環境です。

 おや、小道の終点に立っているのは・・・洗面器!?
 これは、ゴム製のしゃもじのようなもので叩いて音を鳴らす遊具でした。子どもが顔を近づけて響きを感じやすい形状になっているんですね。 じつは、こうした音を楽しむための仕掛けは遊び場のあちこちにあります。いずれも、オーストラリア在住の音の芸術作家Herbert Jercherさんが、エコやUDに配慮して生み出した手作りの作品です。例えば・・・

 大きな鉄琴風のチャイムと、タイヤにゴム製の膜を張った太鼓が背中合わせに合体したもの。友達と向かい合って即興のセッションなんて楽しそうですね。

 こちらのキノコのような形をしたスツールも楽器! 支柱の根元に付いている黒いペダルを踏むと、中から小ぶりの鐘を撞いたようなゴーンという音がします。面白いのは、耳だけでなく体でも音を感じられるところ。スツールに腰掛けて踵でペダルを踏めば、音とともに座面から振動が伝わってきます。聴覚に障害のある人もない人も楽しめる遊具です。

写真:小型の円柱の前後に座席を設け、4本の支柱から吊り下げた遊具。同じものが3つ中心に向き合うよう配置されている

 さて、蛇の小道から先へと進んだ所で、二人乗りのロデオ遊具を発見!  小型の遊動円木のようですが、前後の揺れ幅は限られているため比較的安全です。さらに左右や斜めを含めた複雑な揺れまで体験可能。子どもの後ろに大人が座ってサポートしながら遊ぶことを想定し、座席の位置や形が工夫されました。

 そして同じ遊具を3つ向き合わせたのは、利用者間の交流を促すためです。特に自閉症などで人との関わりが苦手な子どものために考えた配置だそう。夢中で遊んでいる最中にふと誰かと視線が合う、笑顔が交わされるといった小さな体験の積み重ねも、子どもたちが世界を広げていく助けとなります。

写真:遊具エリア。日よけとして大きな三角形の布が何枚も張られている
写真:大勢の人でにぎわう遊び場

 中央の遊具エリアにやってきました。 一般的な複合遊具(公園をUDに改装する前からあったものを含む)やさまざまなブランコ(幼児用、児童用、大きなざるのような形状の鳥の巣ブランコ)などが並んでいます。
 ここでは遊び場の大半を覆う布製の日よけが大活躍。おかげで、日差しが厳しい真夏にもかかわらず、こうして大勢の親子が楽しい時間を満喫しています。

 工夫は地面にも! 地表面の素材と色を一定のルールで使い分けることで、場所の認識や注意喚起を促す手掛かりとしました。
 通路は白いコンクリート、また遊具のあるエリアは着色されたゴムチップで舗装。さらにゴムチップ舗装は、通路と遊び場の境目が黄色、遊び場で比較的安全なエリアが青、遊具が動いたり人が出入りしたりする活動的なエリアはグレーに塗り分けられています。

 このように地面に工夫をすることは、弱視など視覚に障害のある子どもの自立した移動に役立つだけでなく、自閉症などで他者との不意の接触が苦手な子どもにも利点があるといわれています。人といつどこでぶつかるか見当がつかない環境より、人と出くわす可能性が高いエリアとそうでないエリアが分かれていている方が、安心して遊び場を利用できる場合があるためです。活動的なエリアに踏み込む前にまず通路から様子を眺めて状況を判断しやすいように、との観点でデザインされました。

 遊び場には、遊園地にある「コーヒーカップ」のような回転遊具(乗り込みやすく、座席は背もたれ付き)や、円錐形のネットで囲まれた回転遊具もあり、どちらも子どもたちに人気です。

 さらにもう一つ! ここの名物ともいえる回転遊具があるそうなので、そちらへ向かってみましょう。

写真:2箇所の出入り口以外を壁でぐるりと囲まれた一角。中に親子連れの姿

 コンクリートの壁で囲まれた中から、子どもたちの大きな声が響いています。
 「8! 7! 6! 5!・・・」

写真:大型の回転遊具。回転盤には複数の椅子席やカーブした手すりがある

 その中心にあったのは、静止した巨大な回転盤(直径4.8メートル)! 車いすのまま地面から直接乗り込めるようフラットな構造で、立位が不安定な子どもも安全に楽しめる椅子席もあります。手すりが直線の放射状ではなく複雑にカーブしているのは、車いすユーザーのためのスペースやアクセスのしやすさやを確保しつつ、回転中に乗客が簡単に外へ振り出されることがないようガードの役割を持たせるためでしょう。ちなみに、車いすは同時に6台も乗れるそうですよ。

 さて、子どもも大人もそろって柱に設置された電光掲示板を見上げているようですが、この巨大遊具を一体どうやって動かすのでしょう?  

 じつはこれ、壁の操作盤で作動させる電動の回転遊具、つまりはメリーゴーランドなんです! この公園のために作られました。

 操作盤の中央には、回転速度(FAST/SLOW)を選択するレバー。その右にある緑のボタンがスタートで、左の赤いボタンを押すと緊急停止します。(この停止ボタン、操作法をよく知らない子どもが通りがかりについ押しちゃうことがあるそう。一度停止するとその後90秒間は始動しないため、乗客たちからはブーイングが起こるのだとか。)

 柱の電光掲示板には、残り時間を視覚的に表す円グラフとともに、秒数が表示されています。今は緑のスタートボタンが押され、掲示板の数字に合わせてみんなでカウントダウンしながら、動く瞬間を待ち構えているところ!

写真:動き出した回転遊具

 「3! 2! 1! GO!」
 ついに回り始めました。SLOWは秒速2メートルということで特に遠心力がかかるほどのスピードではありませんが、子どもたちは回転する感覚や流れる景色に歓声を上げたり、カメラを向けるお母さんに手を振ったり・・・。幼い子どもたちは、お父さんやお母さんに付き添ってもらい挑戦しています。ちなみにFASTだと秒速5メートルだそうです。

 回転中の乗り降りは禁止となっていますが、スリルを求めて飛び乗る子、飛び降りる子はいて、それを大人がいさめます。また子どもたちの間では、お気に入りのぬいぐるみを回転盤の外側にヒョイと置き去りにし、次に自分が一周してきたところでサッと取り戻すという遊びも流行っていましたが、「危ないからダメ」とお父さんにぬいぐるみを没収されちゃう子もいました。周りの大人たちはかなり注意深く見守っている印象です。

 メリーゴーランドは2分ほど回転すると自動的に止まります。子どもたちは大急ぎで緑のボタンを押しに行きますが、しばらくは始動せず休憩タイム。そしてスタート時間が近づくと、あの賑やかなカウントダウンが再開されます。

写真:電光掲示板。選択されている速さ(この時はSLOW)と回転が止まるまでの残り時間を示している

 このメリーゴーランドは、開園から約4年の間に10万6千回も乗られたそうで(途中で緊急停止ボタンが押された回を除く)、走行距離に直すと38000キロを超えるのだとか。このレポートが掲載される頃、その距離はきっと赤道の長さを上回っているはずです!

 町の小さな遊び場にある、特製メリーゴーランド――。
 車いすに乗る子どもやお年寄り、ベビーカーの赤ちゃんと親、そして地域の誰もが一緒に楽しめるようにと願った人々の熱意の産物です。

写真:お父さんが子どもたちから取り上げ、壁の上に置いたクマとコアラのぬいぐるみ。並んで子どもたちを見守っているよう

 さて、今回のレポートはここまで! 続きは次号でお伝えします。どうぞお楽しみに。