公園を知る「国内事例」

No.12 そのスロープ、下れますか?

複合遊具の事例より
写真:スロープ付きの複合遊具。勾配は約25%もありアクセシブルとはいえない

 「車いすに乗る子どももデッキに上がれるように」と、日本の公園でもスロープ付きの複合遊具がじわりと増えてきています。

 ただ、実際にはあまり有効ではないスロープも少なくありません(例:勾配が急すぎる、幅が狭く車いすの通過や操作が困難、途中に深い吊り橋など自力では通過できないポイントがある、一番低いデッキまでしか行けない、スロープを上がった先に遊びの要素が少ないなど)。
 障害を持つ子どもの「遊びたい!」というニーズに本当の意味で応えるには、せっかくのスロープが形だけのバリアフリーになってしまっていないかを見極める必要があります。

 私たち自身、海外のUD公園では当然のこととしてクリアされ気に留めたこともなかったポイントが、国内で思いがけない事例に出会うことによって、「何が問題なのか」「どこに誤解があるのか」をあらためて認識できることがあります。 その一例が、「スロープでは『下る』という観点が忘れられがち」という点です。

 「階段は上ったことしかない!」という人がいないように、スロープは車いすユーザーにとって上りにも下りにも使うルート。そして階段同様、下る時の方が危険を伴いやすいものです。 「デッキに上がれる」だけでなく「安全に下りられる」スロープにすることで事故が防げ、子どもはより自立してのびのびと遊べるようになります。

 そこで今回はこの「下る」という観点から、複合遊具のスロープに関する留意点をいくつか見ていきたいと思います。

 その前に、皆さんは車いすに乗って坂を下った経験がおありでしょうか。

写真:車いす

 一般に手動車いすのユーザーは、左右の大きな駆動輪(写真内①)と小さな前輪(写真内②)、つまり4つの車輪の上に身を預けている状態です。地面の傾きの影響をとても受けやすく、歩道や駅のホームで水はけのためにつけてあるわずかな横断勾配でも、注意していなければ車道や線路側へと引き寄せられてしまいます。

 その車いすで坂を下る時には、大きな駆動輪の側面に付いたハンドリム(写真内③)を握ったり手を押し当てたりして、タイヤの回転を制御します。完全に握ってしまうと進まないため、力を調節して手の中でリムを滑らせる必要がありますが、素手ではつらいほどの摩擦熱が発生する場合もあります。

 実際に、車いすの速度と方向をコントロールしながら、柵や他の人にぶつかることなく坂を下るというのは、それほど容易な動作ではありません。 これを踏まえて・・・

1本のスロープが長すぎませんか?
 わずかに傾いた床の上にビー玉を置いたとします。最初はゆっくりと転がり始めますが、徐々に勢いがつきスピードが増します。たとえ緩やかな傾斜であっても、距離が長くなればビー玉を止めるのは難しくなりますよね。

 特に車いすに乗り始めたばかりの子ども、手を使う動作が苦手な人、握力の弱い人などにとって、長く延びた下り坂は手ごわい相手です。「いける」と思って下り始めたものの、途中でコントロールしきれなくなり暴走してしまうことも・・・。

 ポイント①:複合遊具では、デッキ間の高低差を抑え、各スロープの距離を短くすることが有益です。

 バリアフリー法に基づく「都市公園の移動等円滑化整備ガイドライン」では、公園の園路などにおけるスロープは8%以下の縦断勾配で、高さ75センチ以内ごとに水平部分(踊り場)を設けることになっていますが、子どもが遊び場回る複合遊具にこれを適用すると、1本のスロープが長くなりすぎる場合があります。

 例として、高さ60センチのデッキにスロープを架けるのであれば、6%勾配の長いスロープ1本でつなぐよりも、中継地点として高さ30センチの水平部分を挟み、最大勾配である8%のスロープ2本でつなぐ方がお勧めです。
 必要となる敷地面積はほぼ同じですが、適切な中継デッキがあることで、下っている途中にそこで一旦スピードを緩めたり止まったりでき、車いすをコントロールしやすくなります。

図:勾配が6%のスロープ1本の場合と、8%のスロープ2本の場合の図解
図1:スロープの設置例

 こうして傾斜路を水平部分でこまめに区切ることは、スロープを上る際にも役立ちます。
 延々と続く上り坂は子どもたちを圧倒し、「滑り台には行ってみたいけどこれじゃ無理だよ…」と諦めさせてしまったり、常に介助者に頼ることを強いたりしがちですが、短い距離ごとに中継デッキがあればそこで止まって休むことができます。そしてまた「よし、次のあのデッキまで!」と自分の力で上を目指しやすいですよね。(注意:たとえスロープ自体が適切であっても、あまりに高く巨大な複合遊具はUDに不向きです。目的の遊びにたどりつくまでに体力が消耗されてしまい、子どもが存分に楽しむことができません。遊具そのものの高さよりも遊びの種類や質を充実させることで、子どもたちに豊かな体験を提供できるはずです。)

一直線のルートになっていませんか?
 こまめに中継デッキを設けたとしても、スロープを直線状につなぎ続けたのではやはり危険です。
 上のデッキにいる子どもから見えるまっすぐ延びた下りルートは、そこから一気に駆け下りる行動を誘発するためです。車いすで勢いよく下り始めると、途中のデッキから他の子どもがひょいと出てきても、急には止まれません。

 ポイント②:複数のスロープは、各中継デッキで向きを変えたり位置をずらしたりしながらつなぐことをお勧めします。

 これにより、スロープを下ってきた子どもは、デッキごとに進行方向を調整しては次のスロープへと進むので、コントロール可能な速度で安全に下りていくことができます。(注意:遊具上の各スロープは直線とし、傾斜部分自体をカーブさせることは避けます。車いすをこいで曲がりながら坂を上る/下りる動作は、難度がより高くなります。)

図:直線的なスロープルートと、デッキで向きを変えながら続くスロープルートの図解
図2:スロープとデッキの配置例

 なお中継デッキでは、車いすで方向転換をしやすいよう十分な広さを確保します。 ちなみに一般的な車いすが1回転するには直径1.5メートル以上の円形スペースが必要とされますが、大型の電動車いすや介助者が押すリクライニング式バギーなどでの利用を考えると、さらに広いスペースにしておくことが有益です。それにより、車いすユーザーと他の子どもが、あるいは車いすユーザーどうしがデッキ上でゆとりを持ってすれ違えるようにもなります。

中継デッキの正面はどうなっていますか?
 せっかく設けた中継デッキですから、柵に囲まれた単なる踊り場とするよりも、そこから滑り台やはしごなどにアクセスできれば、あらゆる子どもにとって遊びの幅が広がりますね。
 その際、最も注意すべきなのは、上のデッキから下りてくるスロープの真正面をどうするかです。

 スロープを下った先の壁面が、階段やネットクライミングの開口部としてぽっかり開いていると大変危険です。車いすユーザーがその手前で止まり切れなかった時、あるいは上のデッキから赤ちゃんを乗せたベビーカーがひとりでにスロープを下っていってしまった時などに、開口部からそのまま転落することになります。

 ポイント③:下り階段や遊具のアクセスポイントなどの開口部は、スロープの動線から位置をずらして設けたり、意図的な動作を経てアクセスする設計としたりする工夫を施します。

 下の2枚の写真はアメリカのUD公園ですが、車いすがデッキから転落する危険が徹底して排除されています。デッキの開口部から外へアクセスするには必ず、スロープを下った後に進行方向を変えたり、車いすから降りて段にのぼる、あるいは狭いゲートをくぐるなどの意図的な動作が必要です。

写真:複合遊具の例
例3:下りスロープの先のデッキは広く、正面の滑り台へは段をのぼってから、岩壁を模したクライミング遊具へは向き変えてゲートをくぐり抜けてからアクセスするようになっている。


写真:複合遊具の例
例4:幅広の階段は、スロープを下る動線から斜め後ろに配置。しかもデッキの床を一段上がった所から下り始める階段となっているため、車いすやベビーカーがデッキから転落することは決してない。

 じつは、スロープや通路の動線上からの不意の転落を防ぐこれらの工夫は、車いすユーザー以外の人にとっても意義があります。

 バリアフリー住宅では、2階の廊下を進んだ先にまっすぐ下り階段をつなげることは避け、右や左に進路を変えてから下り始めるよう直角などに配置するのが定石です。これは障害や加齢で視力の低下した人が、「ただ廊下を直進していたつもりが階段に気づかず、突然下まで転げ落ちた」という事故を防ぐためです。視力に問題のない人であっても、寝起きでぼーっとしている時や、大きな荷物を抱えて前が見えにくいまま歩いている時に、同じ事故は起こり得ますよね。遊び場なら、スロープをご機嫌で駆け下りてきた子どもが、何かに気を取られてよそ見をしたまま開口部へ……ということも考えられます。

 多様なユーザーの自然な行動の延長線上に危険が潜んでいないか、細心の注意が必要です。

スロープから地面に下りた先はどうなっていますか?
 三輪車やキックボード、自転車などで緩やかな坂をスイーッと下るのは爽快な気分です。車いすに乗る子どもにとって、遊び場の下りスロープはそんな体験ができる場でもあります。

 そのスロープの出口に、他の子どもが駆け抜ける通路が横切っていたらどうでしょう? お目当ての遊具に向かってまっしぐらの子どもと、坂を下る車いすユーザーとの衝突事故を招いてしまいます。ぶつかればたんこぶ程度のけがではすまないかもしれません。

 もちろん利用者側も注意は必要ですが、そもそも子どもは大人より視野が狭く、認識力や身体能力もさまざま。弱視など視覚に障害を持つ子どももいますし、車いすユーザーの低い目線からは、スロープの柵により視界が遮られがちです。
 UDの公園づくりでは、利用者の「危険を予測したり回避したりする力」には大きな幅があることへの理解と、様々なシチュエーションを想像する力が大切です。

写真:複合遊具のスロープを下りた先に通路が横切っており、向かいはコンクリートの築山の壁。1時方向には築山を貫くトンネルの出入口もあり、交差点状態となっている

 上の写真の遊び場では、スロープを下る動線と、その先にある築山の滑り台を楽しむ子どもが利用する動線とが交錯しています。さらに築山を貫くトンネルの出口とスロープの出口が近接し、斜めに向き合った状態です。これではトンネルの向こうからやってくる子どもと、スロープを下る車いすの子どもは、出くわす直前までお互いの存在に気づくことができません。

写真:同じ場所を別角度から撮影。スロープ出入口周辺の地面は、全方向に向けて下り勾配がついている

 その上、スロープの先の地面は水平ではなく、トンネルへ向けた下り勾配となっています。
 実際にこのスロープを、周囲の安全に注意しながら車いすで下りてみました。スロープから地面に差し掛かると、車いすは予想以上の力で築山へと引き寄せられ、トンネル脇の壁にぶつかって止まりました。もしこれが、トンネルから子どもが出てくる瞬間だったらと思うと身がすくみます。

 さて今度は、トンネル前のこの窪地から抜け出さなくてはなりません。傾斜した地面はねじれを伴った曲面で、ゴムチップ舗装も落ち葉に覆われタイヤが滑りやすくなっています。車いすの4つの車輪が安定して接地しないいびつな坂をバックで上って脱出するのは、なかなか厄介でした。

 ポイント④:スロープの終点では明らかな動線の交錯を避け、広く水平なスペースを確保します。

 たしかに「スロープ」はアクセスのための手段ですが、「階段」や「はしご」ではなくむしろ「滑り台」を参考にした慎重な設計が求められます。
 「遊具の安全に関する規準」によると、滑り台はその終点から降り口方向に2メートル以上の安全領域を設ける必要がありますが、この何もないスペースが確保されていることで、子どもが滑り台を滑り降りてその勢いのまま地面に駆け出しても、他の遊具やそこで遊ぶ子どもたちとぶつかる事故が起きにくいのです。「斜面を下るにつれスピードが出て、着地しても急には止まれない」――車いすユーザーにとってのスロープと似ていませんか?

 今回は国内の公園事例をもとに、複合遊具のスロープの「下り」に焦点を当てて、主だった留意点をご紹介しました。 じつは、ここに挙げた課題はどれも、車いすユーザーが遊び場を実際に見たり試したりすればすぐに指摘されるであろうものばかりです。同様に、視覚に障害がある人、聴覚に障害がある人、知的障害や発達障害を持つ人、そしてその家族……それぞれの人が自身の経験上、たくさんの気づきやアイデアを持っています。それは他の人が思いもつかなかった重要な視点かもしれません。

 公園づくりに携わる行政や企業の方から伺う悩みの一つが、「遊び場も遊具も工夫してつくっているのだが、実際のエンドユーザーである公園利用者からのフィードバックがなかなか得られず、次に活かしにくい」というものです。 より上質なUDの遊び場を目指すには、これまで公園をつくる側の人たちが注いできた熱意と努力に加え、公園をつかう側の多様な人たちの積極的な参加が必要です。

 「あの公園のこの工夫は便利で助かるんだよね」
 「もっとこんな遊びができるといいんだけどな」
 みなさんもそんなふうに感じたことがあるのでは? そうした声の一つ一つが、地域の子どもの遊び環境をさらに豊かにする貴重なピースとなり得ます。
 私たちも、いろいろな公園関係者の方と情報交換を進めながら、前向きな提案を重ねていきたいと思います。