「ダイバーシティとインクルージョン(多様性と包摂)」の推進をスローガンに掲げる企業や団体が増えています。
ここでいう「ダイバーシティ」とは、従来の男性・日本人・健常者といった均質的なメンバー構成ではなく、いろいろな特性や背景を持った人材を積極的に採用し多様性に開かれた組織にしようとするものです。
このダイバーシティの度合いは、たとえば「女性や性的マイノリティの管理職が○割」「従業員の出身国が○ヵ国」「障害を持つ社員が○%」などの数字として現れるためわかりやすく、その数を増やすこと自体も比較的容易です。
しかしその企業が本当に進化するためには、それらの一人ひとりが異なる存在としてお互いを受容し、同じ組織のメンバーとして力を活かし合える環境と文化を育くむ必要があります。
それをめざすのが「インクルージョン」であり、この両立によって初めて、多様なメンバーならではの創造性や革新がもたらされ、時代の変化にしなやかに対応し広く社会に貢献できる持続可能な組織に成長できるというわけです。
「ダイバーシティとインクルージョン」の専門家であるアメリカのVernā Myers氏は、この2つを次のように表現しています。
“Diversity is being invited to the party: Inclusion is being asked to dance.”
「ダイバーシティは パーティに招かれること
インクルージョンは 一緒に踊ってと頼まれること」
これはインクルーシブな遊び場づくりにも通じる考えではないでしょうか。
従来型の遊び場はアクセシブルでないために車いすユーザーなどの子どもは招待されておらず、いわばパーティ会場の扉の外に置き去りの状態でした。
そこで設計士たちが公園の入口や園路の段差をなくし、遊具にスロープなどを付けてアクセシブルにすればこの扉は開かれ、物理的には“だれも排除されず、多様な子どもが一緒にいられる”遊び場ができあがります。
しかしめざすのは、置き去りにしてきた子どもをただ公園に招き入れることではありません。
そこで一人ひとりが自分らしく存分に遊べ、多様な人々が関わり合ってこその楽しさや学びが、みんなにもたらされることです。
それには従来型の“バリアフリー”の発想を離れ、「遊びの価値」や「自立・公平性・尊厳」などの重要性を再認識したうえで、地元のより多様な利用者のニーズを反映した質の高いデザインの追求と、人々の心理的な障壁を取り除きだれもが同じ地域の一員だと感じられる環境や文化の創造が必要です。
先進的な公園の図面や遊具をただ真似れば遊び場がインクルーシブになるわけではなく、「地域の多様な人々との連携」と「継続的な改善」が重要とされるのはこのためです。
現在、障害のある子どもの保護者の方たちを中心に全国各地でインクルーシブな遊び場実現への働きかけが始まっています。そうした方々の多くが、遊び場の利用はもとより「公園を一つのきっかけとして、地域社会がインクルーシブになること」を願っておられます。
“当事者”といわれる障害のある子どもや家族たちは、単に「扉を開けて、従来のあなたたちの世界に私たちを招き入れて下さい」と頼んでいるわけありません。
「多様な人々だからこその価値が生まれる新しい世界を一緒につくりましょう」という呼びかけであり、その当事者は「すべての私たち」です。