No.08 みんなの公園つくり隊ise・松元康枝さん

写真:松元康枝さん。

◆松元康枝さん
みんなの公園つくり隊ise代表

三重県伊勢市在住。市民ボランティアグループ「みんなの公園つくり隊ise」代表。
障がいのある次男の子育てをきっかけにインクルーシブな公園づくりに関心を持ち、伊勢市内でインクルーシブ公園として整備された 朝熊山麓公園、大仏山公園のインクルーシブな遊び場「山のなかよし広場」 の整備に、市民活動として関わる。
完成後も、公園を“みんなで育てる”ことを大切にし、地域の多様な人たちと協力しながら、ワークショップやイベントなどの活動を続けている。

みんなの公園つくり隊ise インスタグラム
https://www.instagram.com/minnanokouen.ise/

 

写真:遊び場の遠景。
市営大仏山公園「山のなかよし広場」(写真提供:松元さん)

Q: 2024年、三重県伊勢市の市営大仏山公園にオープンしたインクルーシブな遊び場「山のなかよし広場」は、地域の子どもや家族連れにたいへん好評だそうですね!
 この遊び場の誕生に大きく貢献された「みんなの公園つくり隊ise」(以下「つくり隊」)さんですが、どんな方たちとどんな思いで結成したグループですか?

 みんなの公園つくり隊iseは、子育て世代のお母さんたちを中心にした、ボランティアグループです。メンバーには、障がいのある子を育てる親もいれば、いわゆる健常児の親もいます。いろんな立場や経験を持つメンバーだからこそ、一つの視点に偏りすぎず、「みんなにとって心地いいって何だろう?」を自由な発想で一緒に考えていけることが、私たちの強みです。

 結成のきっかけは、私の息子が手術の後遺症で麻痺が重くなり、公園の遊具で遊べなくなってしまったことでした。そのとき初めて、インクルーシブ公園の存在を知りました。
 「障がいのある子どもも遊べる」ということはもちろんですが、私が心を動かされたのは、みんなで一緒に公園をつくっていく“過程”そのものでした。その過程が、息子のような子どもが身近にいることを知ってもらうきっかけになったり、世の中には本当にいろいろな人がいるのだと、自然に気づき合える。——そんな相互理解の広がりに、強く惹かれました。

写真:遊び場で笑顔のメンバー5人。
みんなの公園つくり隊iseの皆さん(写真提供:松元さん)

 私は、インクルーシブとはまず「知ること」が本当のスタートだと考えています。
 知ることで、これまで気づかなかった視点がひとつ増えたり、今まで考えたことのなかった誰かの背景に想いを寄せることができたりする。そうした小さな気づきが、やさしさにつながっていく。——私はそう感じています。

 みんなの公園つくり隊iseは、公園からそんな“あたたかな輪”がまちへと広がることを目指しながら、地域のみなさんと一緒に公園を育てていきたいと思っています。
 子どもたちにいつも伝えているのは、「自分が楽しい」だけじゃなく、「自分も楽しい!みんなも楽しい!」っていいよね、ということです。
 そんな時間を、いろんな人たちと一緒に創っていくオモシロさを、たくさんの人たちに届けていきたいです。

写真:遊び場の工夫を紹介する張り紙。
遊び場の様々な工夫(写真提供:松元さん)

Q:「山のなかよし広場」には、地元の幅広い皆さんの意見が反映されているそうですね。
 多様な人々のニーズやアイデアは、どのようにして集めたのですか?

 私たちが活動の中でも特に大切にしてきたのが、「子どもたちにこそ学んでほしい!」という思いでした。インクルーシブ公園づくりは、遊具を設置すれば完成するものではなく、対話や学びを通して「知ること」から始まり、地域の中に少しずつ根づいていくものだと感じてきました。そこで公園づくりを、「多様性に触れる学び」や「自分たちのまちの公園がどのようにつくられていくのかを知る学び」として、子どもたちの心を育む取り組みにしたいと、教育委員会に相談しました。

写真:教室で子どもたちに話すメンバー二人。
小学校での授業の様子(写真提供:松元さん)
写真:子どもたちが描いた遊具や公園のアイデア。
子どもたちが考えた公園のアイデア(写真提供:松元さん)

 その結果、近隣の小学校と連携し、出前授業のような一回きりではなく、回を重ねて「みんなの公園」を考える授業を展開していくことができました。子どもたちにとって「自分以外の誰か」を普段の生活の中で想像するのは、簡単ではありません。
 ですが、この授業を通して、「さまざまな立場の人たちがいること」を知り、「どんな工夫があればみんなが快適に過ごせるか」といった視点が少しずつ、子どもたちの中に育っていきました。大人が答えを用意するのではなく、子ども自身が気づき、想像し、アイデアを育てていくプロセスを大切にしました。そうして出てきたアイデアは本当に自由で、大人では思いつかないものがたくさんありました。こうして出た子どもたちのアイデアも、実際の大仏山公園の整備に反映されました。

写真:50人弱の人がテーブルに分かれ、公園について意見を出し合う。
地域の皆さんとのワークショップ(写真提供:松元さん)

 また、市民の声を公園づくりに取り入れるため、地域向けのワークショップや座談会も重ねてきました。ただ、実際にやってみると最初は参加者集めにとても苦戦し、参加してくださるのは、もともと障がい福祉に関心がある方や、関係するお仕事の方、身近に障がいのあるご家族がいる方が中心になりがちでした。
 けれど私たちが本当にやりたいことは、「インクルーシブの“イ”の字も知らない人たち」にこそ、知るきっかけを届けることです。

写真:屋外の仮説ステージでの演奏を鑑賞する多くの家族連れ。
公園での音楽イベント(写真提供:松元さん)
写真:段ボールハウスに自由に絵を描いて遊べるコーナー。
段ボールハウスに絵を描くアートイベント(写真提供:松元さん)

 そこで、もっと気軽にふらっと来て、それぞれの楽しみ方をしながら自然にインクルーシブに触れられる入口をつくろうと、メンバーみんなでアイデアを出し合い、整備予定の公園でピクニック音楽会やアートイベントなども企画しました。公園という同じ空間に、車いすの方、白杖の方、親子連れ、お年寄り、子どもたち——さまざまな人がそれぞれの過ごし方で同じ空間に自然と集う豊かさ。そうした体験の中で生まれる声や気づきも、私たちにとって大切なヒントになっています。

 山のなかよし広場には、こうして集まった子どもたちの声と市民の声が重なり合って生まれた工夫が、あちこちに詰まっています。

写真:複合遊具の円形デッキの周囲に、スロープや滑り台やプレイパネル。
スロープを含む多様な方法で上り下りできる複合遊具(写真提供:松元さん)
写真:寄贈された白いベンチ。背もたれはカラフルな虹の形。
高校生がデザインし地元企業の寄付で設置されたベンチ(写真提供:松元さん)

Q: 多様な意見を実際の設計や整備に活かすには、公園を「つくる人」たちと「使う人」たちとの対話や連携が重要ですが、そこに課題を感じる方も多いです。
 つくり隊さんは、行政の方たちとどのように向き合ってこられたのですか?

 当初の課題は、行政の理解がなかったというより、努力の方向性に少し誤差があったことだと思っています。
 私たちが大切にしたかったのは、対話を重ねて人の心が動き、関わりが生まれていく公園づくりで、私は市役所でも「遊具を置くだけで終わらせず、対話や交流が育つ“本物のインクルーシブ公園”をつくってほしい」とお伝えしました。
 一方で市は、「子どもたちの声を聞かねば」と、アンケートという形で一生懸命に動いてくださいました。市が歩み寄ってくれたこと自体、本当は奇跡的なことです。ただ、アンケートだけだと、どうしても“一方向”になりやすく、私が目指したかった「対話」が抜け落ちてしまう——そこに、最初の誤差がありました。

 そこで私たちは、「市ができないなら、自分たちでやろう!」と “つくり隊” が生まれました。

写真:会議室で図面を見ながら話し合うつくり隊と行政の皆さん。
市の担当者たちとのミーティング(写真提供:松元さん)

 公園整備というハードは行政が担い、私たちは人の心を動かし、対話と学びを育てるソフトを担う。そんなふうに役割分担をしながら、『市民と行政をつなぐ“架け橋”』の役割を意識して動きました。
 ワークショップや座談会を重ね、学校とも連携しながら、声を集めるだけでなく「なぜそれが必要なのか」「どんな場面で困るのか」といった背景を知ることを大切にしながら、整備の検討につながる形にしていきました。

 その結果、思いもよらない変化が生まれました。
 普段は教育の場とは無縁の、基盤整備課(都市公園の整備を担当する部署)。いわば土木のプロの“おじさんたち”が、小学校で授業をするようになりました(笑)。しかも、新しくできる公園を「考えて終わり」ではなく、子どもたちが公園整備の随所に関わり、公園の工事見学までを授業として展開することができました。

写真:クレーンで遊具を組み立てる様子を見学する子どもたち。
公園整備地に小学生を招いての見学会(写真提供:松元さん)
写真:ショベルカーの運転席に乗り込む女の子。
作業車への試乗体験も(写真提供:松元さん)

 もし基盤整備課だけで公園をつくっていたなら本来生まれなかったつながりが、たくさん生まれていったと思います。そしてそのつながりは、子どもだけでなく、行政や地域の大人たちも含めて、関わる人たちの心を少しずつ豊かにしていきました。そこに、インクルーシブ公園づくりの本当の価値があると感じています。