公園を知る「海外事例」

No.02 てっぺんに続くスロープ

アメリカ・バウンドレス プレイグラウンドより
写真:オセロゲームの台の上に置かれた円いマグネット

 実際の公園をご紹介する前に、まずはこちらの写真をご覧下さい。色違いの円いマグネットをそれぞれ、赤は1枚、青は2枚、黄色は3枚重ね、それらを高さの違う3つのプレイデッキに見立てて、等間隔、一直線上に並べました。1番高い黄色のプレイデッキに車いすでも行けるようにするために、地面から赤のデッキへ、赤から青のデッキへ、青から黄色のデッキへ、3本のスロープを渡してみましょう。

写真:細長い厚紙が3つのマグネットを橋渡し

 これで車いすに乗っている子どももてっぺんまで行くことができます。そして兄弟や友達と一緒に頂上の特別な眺めを楽しんだり、ここから延びている一番長い滑り台を滑ったりできるようになりました。

 今度はプレイデッキの位置を左右に少しずつずらしてみましょう。

写真:マグネットの位置がずれ、ジグザグになった橋

 直線状につながっていたスロープはジグザグになり、たちまち変化に富んだルートが現れました。スロープを上ってデッキに着くたびに新しい景色が広がり、「この先はどうなってるのかな?」と期待が高まります。
 バウンドレスプレイグラウンドの複合遊具は、公園によってデッキの数やデザイン等はじつに様々ですが、基本的にこのような構造でスロープが頂上まで続いています。

写真:複合遊具入り口のスロープ

 では実際の公園の写真を見てみましょう。こちらは2~5才の子ども向けの複合遊具です。(ちなみに地面に白く残っているのは雪です。)入り口から最初のデッキに向かってスロープが延びていますね。
 スロープの勾配は1/12(約8%)以下で、これは「12メートルの水平距離を使って1メートル上がる程度の傾斜」という緩やかなものです。しかも、隣り合うデッキの高さの差はどれも30センチほどに抑えられているので、実際は5メートルも10メートルも続くような長いスロープはありません。

写真:複合遊具の高さ120cmほどのプレイデッキと高さ150cmくらいから下りる滑り台

 こちらは別の公園の5~12才の子ども向け複合遊具ですが、スロープの勾配の基準は同じです。わずか30センチずつの上昇でも、いくつかのデッキを中継することで、最終的にはこれだけの高さの滑り台を誰もが楽しめるようになります。

写真:スロープルートに連結した別ルート

 またジグザグのスロープルート(写真左)には、バランス遊具やうんてい等を使った多様な別ルートがあちこちから連結しているので、子どもはそれぞれ自分に合ったチャレンジコースを選んで遊ぶことができます。

写真:複合遊具の柱に貼られた対象年齢表示シール「5~12歳用」

 話はスロープから少し逸れますが、これらの公園のように、一つの遊び場で年齢別に2種類以上の複合遊具が設置されている所が少なくありません。大きな子ども向けの遊具にはより高いデッキがあるのですが、もし小さな子どもがそちらで遊ぶと思わぬけがをしてしまうかもしれません。そこで遊具のいたる所に対象年齢の表示があります。公園でお母さんが表示を指差して、「あなたはまだ○才でしょ?だからここはあなたの遊ぶ場所じゃないのよ」と子どもを諭している場面を時折見かけました。

 近年、日本でも対象年齢を表示した遊具が見られるようになっています。だれもが安全に楽しく遊べる公園にするためには、日頃から大人が気を配ると同時に子どもたちの意識も育てていくことが大切かもしれません。

 さて今回ご紹介した写真は、いずれも町の図書館やグランドの隣にある小規模な公園で、地域の子どもたちが日常的に利用する身近な遊び場です。「バリアがなく、だれもが利用できるユニバーサルな公園を」という住民の強い意向で作られました。

 そして今回のテーマ、複合遊具のデッキを緩やかにつなぎてっぺんまで続くスロープは、車いすを使う子どもだけに貢献しているのではありません。

 赤ちゃんを乗せたベビーカーを押しながら、お兄ちゃんの遊びに付き添うお母さん、
幼い孫と手をつなぎ、ゆっくりと頂上を目指すおじいちゃん、
はしごを懸命に登って来る娘に、デッキの上から声をかけ励ます車いすのお父さん・・・

 それぞれの地域に住むあらゆる人たちの笑顔に、今日も貢献しています。