公園を知る「海外事例」

No.15 公園訪問inケアンズ・オーストラリア(後編)

オール・アビリティズ・プレイグラウンド

 クイーンズランド州が実施したすべての子どものための公園づくり事業「オール アビリティズ プレイグラウンド プロジェクト Queensland All Abilities Playground Project」。

 前回のレポート(海外事例No.14)では、このプロジェクトでつくられた16の公園のうちの一つ、George Davis Parkをご紹介しました。続いて、もう一つの公園を目指し、90㎞ほど南にあるEdmontonという町へ向かいます。

 やって来たのは、Sugarworld Gardensという名の公園。
 なんだかとっても甘そうな名前ですが、それもそのはず。今から130年ほど前、ここには大きな製糖工場があり、周囲にはサトウキビ畑が広がっていたそうです。開拓期の地域の発展に貢献したサトウキビ産業ですが、20世紀後半から縮小が始まり、ついに閉鎖された工場の跡地をケアンズ市が買い受けました。

 現在は、樹齢100年以上のものを含む多様な樹木を有する植物公園として生まれ変わり、後に整備されたプール施設とともに、地域の人々に広く親しまれています。
 新しくオール アビリティズ プレイグラウンドがつくられたのは、その一角。早速行ってみましょう!

写真:緑いっぱいの公園の奥にあるカラフルな日除けや遊具

 広い芝生広場の向こうから、子どもたちの賑やかな声が聞こえてきました。きっとあれが目指す遊び場ですね。周りには大木が生い茂り、まるで森の懐に抱かれているようなロケーションです。

写真:フェンスにかかるかわいらしい看板

 遊び場を囲うフェンスにかかった看板には、ここが障害の有無を問わないすべての子どものためにつくられた遊び場であることが記されています。

写真:子ども用の自転車置き場に、大きな輪の形をした自転車ラックが3つ

 また、出入り口の手前には自転車置き場があり、子どもたちの小さな自転車やキックボードが並んでいます。

 アクセシブルなルートやスロープの多いUD公園では、自転車のむやみな乗り入れによる事故が懸念されることがありますが、それには遊び場の手前にきちんと駐輪スペースを設けることが有効と言われます。そのスペース自体が「自転車はここね!」というメッセージとなり、子どもたちはやたらと遊び場に乗り入れることを控える(親は控えさせる)よう意識が高まるというわけです。

 さらにこの駐輪場には、ちょっとおしゃれな自転車ラックも設置されていますね。これは、補助輪を卒業したばかりでスタンドの付いていない幼児用自転車を立てかけて置くのに活躍しています。

  入り口の門を開けて遊び場に入ると、ピクニック&バーベキューエリアがありました。
 なんでも、オーストラリアの公園に無料のバーベキュー設備は欠かせないのだとか。この日は誰かのお誕生会をしているらしく、バーベキュー小屋は色とりどりの風船やパーティ用のデコレーションで飾り立てられていました。家族や友だちと公園へ出かけ、ピクニックを兼ねてたっぷり遊ぶ誕生日というのも、健康的で楽しそうですね。

 この他、遊び場には随所にベンチが配置されていて、いろいろな親子連れが利用していました。ただし今は夏の盛り・・・。やはり日陰に置かれたベンチの方が圧倒的に人気です。

写真:遊び場に何枚も張られた日除けの布。風通しのため、隙間を空けながら張られている

 主要な遊びエリアも、日除けのシェードで覆われています。頭上には、赤や緑の大きな三角形の布が、いくらか隙間を空けながら組み合わせるようにして張り巡らされているのです。

写真:1本の支柱を中心に三角形の布が5枚広がっている。その隙間から落ちる光が、砂場に5枚の花弁を持つ花のような形を描く

 それにほら! 上の写真の場所では、シェードの隙間から差し込んだ光によって、砂場の表面に大きな花模様が出現。周りに落ちる影も、それぞれの布を映してほんのり色づいているんですよ。ただの白い砂場も、ちょっと特別な場所に感じられました。

 こちらでは、回転遊具やスプリング遊具が、砂場とゴムチップ舗装の地面の境界線に沿って並んでいます。この地面なら、誰もがアクセスしやすく、またどちら側に落ちても深刻な怪我は避けられます。

 右の写真は、大型シーソーのようなスプリング遊具。オーストラリアではよく見かけるタイプです。
 昔ながらのシーソーと違って、無人の状態でもバネを支えに吊り合っているため、一人で乗っても揺れを楽しめます。また、両端プラス真ん中の台にも乗り、3人で遊ぶこともOK!
 
 特にここのシーソーは幅がゆったりで、介助者と並んで座席に乗ることも可能ですし、中央の台には子どもが寝転ぶことだってできそう。
 一方の座席には背もたれが付いているので、サポートのある方が安心な場合はそちらを。もう一方は背もたれがない分、後ろから車いすで直接アプローチして座席に足を載せ、手すりを持って体を前に引き寄せる方法で移乗するのに好都合でしょう。

 遊び場には他に、背もたれ付きブランコや、音の立体芸術家Kim Bowmanさんの楽器が並ぶ音遊びコーナー、多様な熱帯植物に囲まれた小さな隠れ家的スポットに、水遊び&砂遊びコーナーなどがあります。

 中でも水遊び&砂遊びコーナーは、よちよち歩きの子どもたちに大人気! ちなみに、そのそばに置かれた大きな縁台(シェード付き)は、お母さんたちにとても重宝されていました。ベンチよりも縁台の方が、マザーズバッグから取り出したバスタオル、着替え、おもちゃ、水筒、おやつ・・・たくさんの荷物を気兼ねなく広げられますよね。

 さらに奥には、ネットを用いた遊具がありました。
 左の写真は、六角錐の形をしたクライミング遊具。6つの側面はそれぞれ、網目状のネット、縄ばしご、縦に張られたロープ・・・と遊び方が異なり、いろいろなチャレンジレベルを提供しています。頂上近くにある鳥の巣のようなスポットは、子どもたちのお気に入りの場所のようです。

 そして右の写真の遊具は、ネットの張り方に文字通り「ひねり」が加えられています。
 ちょうど、紙テープの両側を持って、片側だけを半回転させたような形状。最初はネットの表側を上っていたはずなのにそのまま向こうへ進むと裏側になっちゃう! どこかでネットの縁をまたいで、反対側に移らなければなりません。

写真:10メートルの長さがあるネット遊具の全景

 ネットの長さも高さもなかなかのものです。そこが子どものチャレンジ精神を刺激するようで、渡り方を工夫して繰り返し挑んだり、年上の子の技を見て真似たり・・・。シンプルな遊具ながら根強い人気を得ていました。

 当然、アクセシビリティも考慮されています。
 ネット遊具は基本的に砂場に置かれているのですが、スタートやゴールの地点へは車いすや歩行器のままアクセスできるよう、園路からゴムチップ舗装の地面でつながっているのです。
 これなら車いすや歩行器のユーザーを含むだれもが、ネットの端のハンモックのような部分に寝転んで遊んだり、中央に向かってよじ登ったりすることに、容易に挑戦できます。

 ところで。 前回のレポートの最後に、一つのクイズを出していました。

「『オール アビリティズ プレイグラウンド』で見かける、これらの看板は何でしょう?」

 答えは、『遊び場でのコミュニケーション支援ツール』でした。

 このツールは、今回のプロジェクトの責任者Lisa Staffordさんたちによって、独自に開発されたものです。「遊び場で多様な子どもたちのコミュニケーションの機会を増やす」ことをねらいとしています。
 開発に当たっては、実際に子どもが遊ぶ様子の観察はもとより、言語療法士をはじめ障害児者の認知やコミュニケーション能力促進に尽力する様々な団体との協働があったそうです。

 このツールは、大きく分けて2種類あります。
 一つは、遊び場に入ってすぐの場所に立てられた看板『Choose what to do (何をするか選ぼう)』。

写真:大きな看板のアップ。文字と絵が描かれたマスが並ぶ。各マスには、ある言葉とそれを示す絵、また手話での表現方法がジェスチャーをする人の絵と説明文で示されている

  ここには、「飲む」「食べる」「トイレ」「砂(場)」「水(遊び)」「ブランコ」「かくれんぼ」など、子どもが公園でやりたいことや行きたい場所を示すための27のキーワードが、それぞれ『言葉』+『絵やシンボル』+『簡単な手話』の3つをセットにして表示されています。

 聴覚や言語に障害がある子どもだけでなく、発達障害などのために、話し言葉による意思の疎通に困難さを抱えている子どもたちがいます。

 例えば、「ス・ナ・バ」という音声情報を、すぐに実際の具体物(ここでは「砂場」)と結びつけて認識することが難しい場合があるのです。これは、言葉を習得する前の小さな子どもや、その言語を母語としない、外国からやってきた子どもにとっても同様でしょう。しかし、絵やシンボルなどの視覚的手がかりがあることで、相手の言葉の内容をスムーズに理解したり、自分の意思を伝えたりできるようになるケースはとても多いです。

 (『ブランコ』で遊ぼうよ!)
 (うん、その前に『トイレ』行ってくるね)

 看板を指さしたり、ジェスチャーをしたりすることで、いろいろな子どもがお互いに理解し合いながら、いっしょに遊び始めることができます。

 ツールのもう一つは、遊び場の随所に設置されているひと回り小さなボード『Have a chat (おしゃべりしよう)』。

写真:小さなボードのアップ。各マスには、言葉とそれを示す絵やシンボル

 こちらには、遊びの最中のコミュニケーションに役立つキーワードが、『言葉』+『絵やシンボル』のセットで示されています。
 さらにこのおしゃべりボードは、遊びの内容によって5つのパターンが用意されています。

 ・『活動的な遊び』:ボール遊び、滑り台、登り遊具、回転遊具など
 ・『創造的な遊び』:砂場でのお城づくりやケーキづくりなど
 ・『ごっこ遊び』:お店屋さんごっこなどのロールプレイ
 ・『感覚的な遊び』:匂いを嗅いだり、触ったり、探検遊びなど
 ・『ピクニックテーブルにて』:食事をしながらの会話

 各パターンのキーワードを比べてみると、「僕・私(の番)」「あなた」「すごい」「だめ」「手伝う」などは概ね共通していますが、『活動的な遊び』なら「登る」「回す」「押す」「早く」「ゆっくり」・・・、また『創造的な遊び』なら「つくる」「混ぜる」「お城」「トンネル」「川」といった具合に、状況に応じたワードが選ばれていて、「好き」「つまらない」「おいしい」「まずい」「ありがとう」など感情を表すワードも豊富です。

 どのパターンのボードをどこに設置するかは、各エリアの特性や遊具の位置、安全性等を踏まえ、子どものニーズに最大限に応えられるよう考慮がされています。

 障害児の教育に携わる人たちからは、こうしたツールが学習やリハビリの場ではなく、楽しい遊び場にあることで、子どものコミュニケーションに対する意欲が自然に高まり、主体的な言語習得にもつながるとして期待が寄せられている、大変ユニークな実践です。

写真:遊び場の前の芝生広場にある大木。周囲に向かって広く水平に張り出した枝が大きな日陰をつくる。その木陰にベビーを置いて、傍らでくつろぐ親子

 さて今回は、クイーンズランド州で完成したばかりのオール アビリティズ プレイグラウンドを2箇所訪れました。じつは公園を見学する中で、何度も思い出された言葉がありました。

 それを聞いたのは3年前です。
 当時、プロジェクトは各公園の設計段階にあり、取材をさせてもらった州の担当部局Department of Communities(当時のDisability Services)は大忙しでした。

 私たちは、当局が事業に先駆けてつくったPioneer Parkの成功をもとに、ほぼ同様の公園を各地につくるものと想像していたのですが、Lisaさんは、「ニーズに合わせ、各地域で独自にデザインする」と教えてくれた中で、こう言ったのです。

『私たちは今も学んでいるの。どうすれば、あらゆる子どもがより楽しめる公園ができるのか』

 その言葉は本当でした。

写真:パイオニアパークと今回の公園の対比。前回のアルファベットのボードと、今回のおしゃべりボード。やや無骨な背もたれ付きシートと、洗練されたブランコシート
パイオニアパークと今回の公園のビフォア・アフター

 遊び場では、かつて見た、点字や指文字を記したアルファベットのボードの代わりに、より実際的なコミュニケーションツールが開発されていました。
 機能性・デザイン性ともに優れた人気のブランコシートは、当時改良のために試行錯誤を繰り返していた、地元の同じ遊具メーカーによる新製品です。

 綿密に計画をし(Plan)、実行に移し(Do)、目標の達成度を評価し(Check)、改善につなげ(Act)、さらによいものを計画する(Plan)・・・

 オーストラリアは、すべての子どもにとってよりよい社会を築くためのらせん階段を、一歩ずつ着実に上っています。

 最後に、クイーンズランド州が完成した各公園で行ったインタビューの様子を収録したビデオから、地域の人々の声をいくつかご紹介します。

地域住民へのインタビューより(出処:QAAPPのウェブサイト)
●すべての子どもが、いっしょにいろいろな遊びを楽しめるこの公園はどうですか?

「ここは、障害のある子とない子が出会える場所。出会って、遊んで、学べる楽しい場所ですね」
「小さな子も大きな子も、みんなが遊べます。朝早くから夕方暗くなるまで、この新しい公園で遊びたくてたまらない子どもたちがたくさん訪れるんです。あまりの人気ぶりに、最初の数週間は照明を点けなければならなかったほどなんですよ」
「車いすに乗っているか、歩けるかなど関係なしに、すべての子どもが、来て、遊んで、関わり合って、コミュニティの一部になれる場所です」
「この町には、デイケアや学校など特定の施設以外に子どもたちが屋外で遊べる場所がほとんどありません。でもここは、子どもを連れて家族で来られる中立な場所というところが、すごく貴重だと思います。みんなここで社交性を身につけたり、新しいスキルを学んだりできるでしょう。ここはずっと長い間、私たちに欠けていた場所だと思うんです。だからとてもワクワクしています」

●このプロジェクトでは、設計のすべての過程で地域の皆さんに参加してもらいました。住民参加はなぜ重要だと思いますか?

「住民が設計に加われたら、自分たちの欲しいものが置けるわけだから、みんなの利用が増えますよ」
「地元住民は、自分たちが何を望んでいて、何がうまくいかないのかを知っています。自分も参加するとなれば、私たちはあなた(設置者側)と対立するのではなく、いっしょに努力しようとする。だからよりよい結果が得られるんです」
「最終的にみんながハッピーになれます。子どもたちはハッピー、親もハッピー、地元にいいことができて議会もハッピー、コミュニティもハッピーですよ」

●なぜこのような遊び場が大切だと思いますか?

「多くの障害のある子どもたちが、他の公園を使えなったり、利用が著しく制限されていたりします。自分が、グループや仲間やコミュニティの一員だと感じられないでいると、その子は『自分に問題があるんだ』と思い始めてしまう。
だからこそ、こうしてすべての子どもが等しく歓迎される場所が重要なんです。これは子どものためだけでなく、コミュニティ全体にとって有益なことです。
ここは、自分が地域社会の一員として歓迎されていると感じられる場所、人が生きがいを得られる場所なんです」

QAAPPを率いたLisa Staffordさんへのインタビュー記事はこちら!
コラム特別編:この人に聞くNo.03