NPOのTouched by Oliviaが最初に手掛けたインクルーシブな公園 Livvi’s Place Five Dockでは、独自のUDの工夫にたくさん出会えます。さっそく続きをご紹介していきましょう!
まずは前回ご紹介した、車いすが6台も乗れる名物のメリーゴーランド。人気が高く繰り返し乗る子どもも多いことから、開園後に日よけの大屋根が取り付けられました。周囲がコンクリートの塀で囲まれているのは、入り口を限定することで、回転している大型遊具に子どもが不用意に駆け込む危険を減らすためです。
塀の表を飾っていたのは、青虫と蛹と蝶を描いたモザイク壁画。すべての子どもの豊かな成長と飛躍への願いが感じられます。この壁画の陶板は、地元の特別支援学校に通う児童生徒によって制作されたそうですよ。
塀の内側はというと、地域の子どもたちの手形タイルで賑やかに彩られています。
また一昨年(2012年)には、この辺りの地図を描いた壁画も追加! レンガ造りの家並み、道路を行くスクールバス、公園のそばを流れる川や、ヨットが浮かぶアイアン湾などが表現されています。
視覚に障害のある子どもも触って楽しめるよう、壁画には様々な形や手触りのタイル、小物、人工芝などが用いられていました。木の葉や花、蝶の形をした手作りタイルもあります。
さらなる仕掛けとして、地図のあちこちに「FRIENDS(友達)」「PLAY(遊ぶ)」「EXPLORE(探検する)」などの文字と点字を表記したプレートや、QRコードが!
これらのQRコードをスマートフォンなどで読み取ると、インターネットを通じてこの壁画に関するミニクイズが載ったサイトや、公園ができるまでを紹介する動画などにアクセスできます。ユニークなアイデアですね。
こうした技術を用いれば、遊び場や近隣で開かれる親子向けイベントの情報サイト、あるいは子ども連れ歓迎のお店やバリアフリー対応の観光スポットの情報サイトなどとつなげることも可能。多様な家族の休日をより豊かなものにしたり、地域の活性化に一役買ったりもできそうです。
ところでメリーゴーランドの周りをアルファベットのCの字状に囲んでいるコンクリート塀、じつは2重になっていました。その間には緩やかに上って下りるスロープ通路があり、側壁には片側ながら2段手すりも付いています。
スロープを進むと、ん? 床に半球状の突起……。
踏んでみると、床下から大ぶりのベルを鳴らしたような澄んだ音が響きました! これも前回ご紹介した音の芸術作家Herbert Jercherさんの作品。所々に埋め込まれたこの突起を踏んで辿ると、スロープを上るにつれて音の高さは上がり、下り坂では音も低くなるという趣向が・・・。ここを通る幼児から大人、そして車いすや歩行器、杖、三輪車のユーザーまでともに楽しめる粋な仕掛けです。
また塀の奥には、スロープの一番高い場所から外側に向けて小さな滑り台がありました。人工内耳を装用した子どもも静電気を気にせず滑れるスチール製。南東に向けて設置することで、滑り面が長時間の日差しを受け熱を持つリスクが抑えられています(ここは南半球なので太陽は北!)。
車いすや歩行器でアクセスできる唯一の滑り台としてはちょっぴり物足りない感じもしますが、大人が子どもをサポートして滑れるよう幅を広く取ったり、スロープ上に残った車いす等を介助者が運び下ろしやすいよう近くに階段を設置したりする工夫が施されていました。
遊び場には他に、屋根付きの砂場やチャレンジレベルの高いザイルクライムもあり、子どもたちが選べる遊びスポットは多彩です。
遊び場の奥にあるアクセシブルな林もその一つ! 木陰の風は涼しく、どこかひっそりした雰囲気が人々に安らぎを与えながら冒険心をくすぐります。
地面に設置されている黒い物体は、古タイヤを利用した遊具。真ん中の穴を覆うように張られた丈夫なシートの上で勢いよくジャンプすると、「ブフォッ」と音がする仕掛けが施されています。
活発な遊びの渦からしばし離れて休んだり、林を探検して珍しい葉っぱを集めたり、木に登ったり、のんびり歩く鳥を観察したり……子どもたちは、ここならではの遊びを自由に展開できます。
なお、木々の間からは遊び場の様子がうかがえるので、自分の好きなタイミングで遊具遊びに戻ることもできますね。
ところで見学に訪れたこの日は元日でした。公園は大勢の家族連れでにぎわい、バーベキューコーナーではパーティも開かれています。
遊び場を自由に駆け回る子どもと、リラックスして楽しむ大人――。みんなの「のびのび」&「のんびり」を可能にしているのが、遊び場を囲うフェンスと出入り口のゲートです。特に発達障害や知的障害、聴覚障害などを持つ子どもの親や、一人で複数の子どもを連れてくる親にとって、フェンスやゲートの存在はとても心強いもの。「遊び場を囲うなんて閉鎖的で過保護」という見方もありますが、これがある公園を見つけてからやっと外遊びに行けるようになったという家族もいるんですよ。あらゆる子どもの豊かな成長を支援するには、遊び場にも選択肢が必要です。
中でもここの正面ゲートには、ユニークな自動ロックシステムが採用されていました。 扉は左右2枚あって、入り口と出口に分かれています。
れぞれの上部にある円いボタンを3秒間押すとロックが解除され、扉を押し開けることができます。手を離すと扉はゆっくりと閉まって、カチャリッ。
ボタンの高さは160センチなので、小さな子どもが一人で開けて出て行ってしまう心配がありません。ただし、これでは車いすユーザーである親などにとって手が届きにくい場合も……。
その代替手段となるのが、非接触型カードシステムです。 各扉の手前に立つ黄色い柱にご注目。1メートルほどの高さにある黒い部分がカードの読み取り機です。専用のカードをここに近づけると、ボタンと同じく扉のロックを解除することができるそうですよ。
さらに、扉が透明のプラスチック板でカバーされているのがおわかりでしょうか。
このおかげで、車いすユーザーもベビーカーを押す親も、まず手で扉を大きく開けたり、誰かに押さえておいてもらったりする必要がなくスムーズに通過できます。柵の間に足先が挟まる心配がないので、普段の通行と同じ姿勢のまま足やフットレストで扉を押し開けて通ればよいですからね! ゲートの通過に手間取っている間に他の子どもが走り出てしまうリスクも低減。シンプルかつ効果的な工夫です。
このように、いくつものユニークなアイデアが積極的に取り入れられたLivvi’s Place Five Dock。設計を担当したカナダベイ市のBen Richardsさんは、自ら特別支援学校に赴き、長期間にわたって子どもたちの行動を観察し、関係者との話し合いを重ねたそうです。 すべての地域住民のために――信念に基づいて前向きにチャレンジする人々の意欲が伝わる公園でした。
じつは先日(2014年7月)、ここでまた新たな一歩が踏み出されたというニュースが! Touched by Oliviaが社会事業として、公園の前の芝地に小さなコーヒースタンドをオープンさせたのです。これまでお母さんたちの間で「子どもがすごく楽しめる遊び場! ただし近くにカフェやお店はないから、飲み物やスナック持参でね」と紹介されることが多かったのですが、Livvi’s Cafeの開店で便利になりそうです。さらに、ここをカフェの運営者と地域の障害を持つ人が共に働く場とし、売り上げはインクルーシブな公園づくりに役立てていく予定! 子ども連れでない人も気軽に立ち寄れるこのお店は、地域の一段と多様な人をつないでいくことでしょう。
続いてもう1か所、昨年Yamble Reserveに完成したLivvi’s Place Rydeの様子を簡単にご紹介します。
こちらは、NPOとライド市との協働でつくられました。
高低差のある地形を生かしたいろいろな登り方ができる斜面、広い砂場、遊具エリア(鳥の巣ブランコ、大小の回転遊具、背もたれ付きシートのあるターザンロープ(海外事例No.14参照)など)、多様な動物の彫刻や楽器が並ぶ渦巻の小道といったユニークな要素を持つ美しい公園で、こちらも家族連れに人気です。
脳性まひの男の子の母親であるJulieさんが、息子と娘を連れてこれらLivvi’sの公園を訪れた際の感想をNPOのブログに寄せていました。(Touched by Oliviaのguest blog)
Julieさんは以前よく、幼い息子を抱きかかえては公園のブランコや滑り台で遊ばせていました。彼をできる限り他の子どもたちの中で遊ばせたかったのです。しかし大きくなるにつれてそれも難しくなり、公園でできることは減るばかり。やがて彼は遊びの参加者ではなく見学者になっていきました。公園は息子の障害を際立たせてしまう場所……。以来彼女は遊び場を嫌い、避けてきたそうです。
しかしある時Livvi’s の公園を知り、思い切って出かけてみることに。するとそこは障害児のための洞察的なアイデアに満ちた素晴らしい遊び場でした。しかも多くの人がそれらの工夫に気づくこともなく、『普通の』公園として大いに楽しんでいる様子を見て感激します。そこで息子さんは妹や他の子どもたちと一緒に、生まれて初めてのターザンロープや鳥の巣ブランコ、メリーゴーランドなどを楽しみ、家族は公園遊びを満喫したそう。
特にRydeはJulieさんたちにとってなじみ深い地域でした。すぐそばにあるCerebral Palsy Alliance(脳性まひの人と家族を支援するセンター)は、親子で長年リハビリに通い詰めた場所だったからです。もしその頃にこの公園があったなら、リハビリを頑張ったご褒美に息子をここで思い切り遊ばせてあげることも、センターで知り合ったお母さんたちとここで集い語らうこともできただろうと言います。
彼女は、次の2点を指摘しています。 「障害のあるなしにかかわらず、子どもは遊びから、そして一緒に遊ぶ仲間から学ぶことがたくさんある」、「家族の誰かに障害があると、社会との交流は難しくなりがち。だから出かけた先で自分たちもちゃんとインクルードされていると実感できることには大きな意味がある」と。
そしてコメントを、こう締めくくりました。 「どの町にもこんな公園があるべきです。私たちは皆、インクルーシブな社会から多くを学ぶことができるのだから。そして何より……楽しいから!」
Touched by Oliviaはこれらのプロジェクトで高い評価を受け、現在、オーストラリア各地の自治体や地域住民と連携しつつ、さらなる公園づくりに取り組んでいます。これまでの実践で得られた成果や、利用者からのフィードバックで明らかになった課題は、今後の公園づくりにきっと生かされていくはずです。
地域に根差し、創意工夫と挑戦を重ね、個性的な遊び場を誕生させているオーストラリアに、今後も注目です。