いわゆる“インクルーシブ遊具”が日本でも普及し始めました。
それらの開発や改善にあたって、障害のある子どもの家族や支援者たちとの対話に力を入れる遊具企業も増えています。
今後さらなる進化が期待されるとともに忘れてならないのは、「遊具さえ置き替えれば公園がインクルーシブになるわけではない」という点。
実際に地域の多様な子どもや大人が集い、共に楽しむ場になってこその“インクルーシブな遊び場”です。
あいにく現代の子どもたちは、塾や習い事などによる自由時間の減少、ゲームや動画などスクリーンタイムの増加、事故や近隣トラブルといった安全上の懸念などから屋外で遊ぶ機会が減っており、同様の傾向は日本以外の国々でも見られます。
『誰もが出かけたくなるインクルーシブな遊び場とは?』
公園の魅力向上に向けて様々な工夫を凝らした特色ある事例を求め、オーストラリアのニューサウスウェールズ州を巡りました。
今回は、シドニー西部の都市パラマタにあるオリーウェッブ・リザーブ・プレイグラウンドをご紹介します!

パラマタは州有数のビジネス街であり、大型の商業施設やスタジアム、世界遺産の歴史的建築物もあるなど多彩な表情を併せ持った街。
海外からの移住者や若い世代も多く暮らすこの地で、多様な市民に待ち望まれていたのがインクルーシブな遊び場です。
市がその最初の整備地に選んだのは、住宅街の中心に位置し、ラグビーやクリケットができる広大なフィールドを持つオリーウェッブ・リザーブ公園の一角でした。

市は、オーストラリアでインクルーシブな遊び場の普及に取り組む非営利団体Touched by Oliviaと協力し、地元の障害児支援団体をはじめ様々な住民の意見を採り入れながら整備を進めました。
2019年2月、州からの資金提供を含む180万ドル(約1.4億円)をかけて完成した遊び場は、たちまち評判に!
多様な人々で賑わう公園の様子は話題を呼び、ちょうど州が着手していたインクルーシブな遊び場づくり推進事業“Everyone Can Play”の気運を高めることにもつながりました。
いったいどんな空間が広がっているのでしょう?
まずはエントランスエリアから拝見していきましょう!

遊び場の外周はごく普通のフェンスで囲われているのですが、駐車スペースや道路に面したこのエントランス側は特別。
インパクトのある植栽とオレンジや黄色の細い柱、曲線を取り入れた壁がリズミカルに並んだお洒落なデザインです。
子どもの飛び出しなどによる事故を防ぎつつ、閉塞感を与えない軽やかで明るい雰囲気に期待が高まります。

出入口には、落とし込み式のロックが付いた黒い門扉が2つ。
一般の公園ではフェンスと扉が同じデザインでひと続きの例も多い中、色や形状に差をつけることで、入口の場所が直感的にわかりやすくなっています。
もし地面にも点字ブロックのような工夫があれば、視覚に障害のある人も歩道から遊び場の入口まで迷わず辿り着け、よりウェルカムなエントランスになりそうです。
ちなみに2つの門扉は左右対称に設置されているので(右開きと左開き)、車いすユーザーやベビーカーの子ども連れの人も自分のアプローチしやすい側から扉を開けられ、スムーズな通過が可能ですよ!

さっそく門を抜けて遊び場に入ると、まず左側に幼児用エリアがありました。
こちらのエリアでは、公園に元々あった遊具が活用されているそう。
そのためアクセシビリティの度合いはまちまちですが、「揺れる」「登る」「滑る」「弾む」「回る」などいろいろなタイプの遊びが提供されています。
その隣は、日除けのシェードに覆われた水遊び場!
真夏の昼下がりのスラッシュパッドには、ずぶ濡れで思い思いに遊ぶ子どもたちの歓声が響いています。

水は、エリアの前方にあるボタンを押すと、地面や柱などあちこちから吹き出す仕掛け。一定の時間で止まるため、「次は自分がスタートボタンを押すぞ」と早くから待ち構えている子もいます(右端の男の子)。
しばらくして水が止まると、はしゃいでいたみんながその子に期待を込めた視線を送り、彼の押したボタンで水が出始めると再び歓声が!
スターターを務めた子はちょっと得意顔で遊びに加わります。

大きな輪を連ねたトンネルのようなスポットでは、四方から勢いよく水が吹き付ける中をキックボードで駆け抜ける子どもの姿もありました。

幅広い年齢層の子どもたちで賑わうこのエリアの前には、ピクニックテーブルを備えた休憩スポットがあります。
同じピクニックテーブルはこの主要園路沿いに3つ並んでおり(屋根付きと屋根なし)、多くの家族連れが持参のランチを広げて和やかに談笑していました。
ちなみに、ニューサウスウェールズ州はインクルーシブな遊び場づくりガイド『Everyone Can Play』の中で、次の3つの原則を提示しています。
★Can I get there?(行ける)
★Can I play?(遊べる)
★Can I stay?(とどまれる)
物理的な「アクセシビリティ」や多彩な「遊び体験」と併せて、人々が「ゆっくり過ごせる環境」を重視している点がポイント。
日除けやピクニックテーブルもそうした工夫の一つです。
子どもも大人も安心してくつろげる快適な公園なら、利用者の幅が広がるだけでなく滞在時間も増え、人々の出会いと交流の機会が増しますよね!

続いて水遊び場の隣にブランコエリアを発見。
梁に並んだブランコシートは、おなじみの「平板型」と、「背もたれ付きのいす型」、「幼児向けのバケット型」、みんなで乗り込める「皿型」の4種類で、どれも人気です。
日本の公園ではブランコの周りにたいてい安全柵が設置されていますが、オーストラリアでは何も無いまま「いきなりブランコ!」が一般的。
この遊び場の場合、地面の色や材質が「園路」と「遊具エリア」とで使い分けられており(「アスファルト」と「クッション性のあるカラーゴムチップ舗装」)、子どもや視覚に障害のある人が不用意に立ち入ってブランコにぶつからないよう注意喚起の助けになっています。

ブランコエリアの隣にあったのは、人工芝の小さな広場。
この日は子どもたちがラグビーボールを投げ合って遊んでいました。
この国ではクリケットと並んで、ラグビーやオーストラリアンフットボールが盛んです。
そこで用いられる楕円形のボールは、キャッチし損ねるとあらぬ方向へバウンドしがちですが、子どもたちは周りのよちよち歩きの子などにそれなりに注意を払って遊んでおり、大人もおおらかに見守っている様子が印象的でした。
そのささやかな芝地の先には、車いすや歩行器のユーザーも地面からそのまま乗り込めるトランポリンが!

こちらも人気のエリアとあって、周りには順番を待つ子どもや見守る大人のための座る場所が豊富に用意されています。
ベンチだけでなく岩や花壇の縁も、人々が座ることを想定したデザインや配置になっているんですね。

地面に2つ並んだトランポリンは、前回のレポートで紹介したものより大きな2メートル四方(※黒い縁を含む)の正方形タイプ。
広くてよく弾むので、家族がみんなで乗り込んで一緒に跳びはねたり、若者が空中で一回転する大技を競い合ったりする姿もありました。
ここでも幼い子たちがやってくると、若者はそれとなくトランポリンを譲ります。
彼らが危険な技に挑戦するのは周囲にある程度人がいなくなってからですが、スゴ技に引き寄せられるようにまた小さな子たちが寄ってくると、何気なく譲る…の繰り返し。
若者は周りで子どもを見守る親たちと並んで腰掛け、仲間と会話をしながらのんびりと次の機会を待ちます。
直接言葉を交わしたり一緒に遊んだりするだけでなく、それぞれの楽しみ方を認め合い尊重する態度もまた、一つのインクルージョンの形と言えそうです。
さてここまでは、入口から遊び場の奥へと延びる主要園路を進みながら、左側のエリアを順に見てきました。
今度は園路の右側をご紹介。
そちらには遊具広場があり、アクセシブルな回転遊具(回る遊び)や、機関車を模した遊具(ごっこ遊び)、伝声管、金属製の筒を叩いて鳴らすチャイム(音遊び)などが点在しています。



さらに大小2つの複合遊具も!
おもに幼児向けと児童向けの両遊具にはそれぞれ滑り台が付いており、一番長いらせん状のチューブ滑り台は、高さ4メートル以上とかなりスリリングです。


ちなみにどちらの複合遊具にもスロープなどはなく、滑り台がある上階デッキへ到達するには梯子やステップ、ボルダリングの壁などを登るややチャレンジングなルートを辿る必要があります。
ではこれらを登ることが難しい子どもたちは?
誰もがアクセスできる滑り台は、遊具広場を囲うように築かれたユニークな土手にありました!
レイアウトのイメージを大まかな模型でお伝えするとこんな感じ↓

この勾玉のような形の土手に設けられた遊びスポットや残りのエリアについては、レポート後編で詳しくお伝えしていきます。
どうぞお楽しみに!