長い滑り台はまるでジェットコースター! 子どもにとって、とても魅力的な遊具です。ただし滑り台が長くなると、そのスタート地点(滑り出し口)はおのずと高い場所になります。そこへ車いすやベビーカーでも到達できるようにするには、長ーいスロープが必要となってきます。
「UD公園のヒント・国内編」の第1回は、岡山市にある「浦安総合公園」から、車いすに乗る子どももアクセスできるように考えられた大型遊具のある遊び場「子ども夢が島」をご紹介します。
芝生の小高い丘の頂上にある、巨大な船の形をした大型複合遊具。この公園のシンボル的な存在で、丘の下から見上げても迫力があります。船の甲板部分から地面に向かって2本の長いローラー滑り台(手前はより長く、中央奥は少し短い)と、1本の長いスロープ(左)が延びています。この3本の曲線は、ちょうど船を取り巻く波のうねりのようにも見えますね。
こちらが3本の曲線のうちのひとつ、スロープです。
じつはカーブしているスロープを車いすで上ったり下りたりすることは、直線の坂道を行くよりも難しいものです。上りの場合は力を入れてこぎながら(下りの場合は出すぎるスピードを調整しながら)、同時に車いすの向きもコントロールする必要があるからです。
スロープの傾斜は比較的緩やかでゆったりした幅があります。片側には2段手すりがあり、スロープの途中には2箇所に踊り場がありました。踊り場は少し広くなっているので、上りで疲れた時にはここでひと休みができますし、車いすやベビーカーどうしも無理なくすれ違うことができます。
もし踊り場の壁に、絵合わせパズルや音を鳴らして遊べるプレイパネルなどが付いていれば、滑り台以外の楽しみもでき、スロープがただの通路ではなく遊具としての機能を併せ持つことができるでしょう。
少し短い方の滑り台のスタート地点です。周囲にはある程度のスペースがあるので、車いすの子どもが床に降りる動作をしているときも、他の子どもの通り道が完全にふさがれることはありません。
ところで、車いすの座面から床までは約40センチの高さがあり、足や腕に力が入りにくい子どもはドスンとしりもちをつくようにして降りることもあります。もし滑り台のスタート地点の床が一段高いデッキになっていれば移乗が楽になります。またそのデッキの適切な位置に縦のつかまりバーがあれば、車いすから移乗する子どもにとっても、デッキに上がる他の子どもにとっても便利な手掛かりになるでしょう。
滑り台の醍醐味は、高いところから一気に下りていくスピード感! そのおもしろさに、滑り終えた子どもの多くが「もう一回!」とすぐさま出発点へと駆け出します。
しかし車いすを使う子どもが滑った後は、だれかが空いた車いすを押して長いスロープを下り、滑り台の終点に届ける必要があります。そして自分の車いすが到着するまでの間、その子どもは滑り台の下で待っていることになります。
独自の工夫で、車いすの子どもにも長い滑り台を滑る楽しさを提供しているこの遊具は、私たちに多くの示唆を与えてくれます。滑り台が長くなると子どもの楽しみは大きくなりますが、それと引き換えに新たな課題も出てくるのです。
より簡単に空の車いすを運べるショートカットのコースはできないか。
滑り終えた子どもが、後ろで順番を待っている友だちのためにスムーズに場所を空け、安全に車いすの到着を待つことができる待避スペースはどうすればよいのか。
長いスロープを最後まで上りきることができなかった子どもや、上ってはみたものの滑り台を滑る決心がつかなかった子どもたちに、どのような遊びの選択肢を用意できるか。
さらには、
車いすに乗っている子どもだけでなく多様な子どもや親たちへの配慮。
遊具を簡単にするのではなく子どもたちに、
多彩なチャレンジの幅を提供する工夫。
あらゆる子どもがアクセスできることから生じる新たな危険の回避・・・
予算や技術的な制約などと照らし合わせながらも、これらを一つひとつ解決していくことがUD公園に近づく過程と言えます。
最後になりましたが、課題を提示する一方で、この公園は確かな成果も生んでいます。
じつはこの大きな複合遊具の中で、車いすの子どもが遊べるのは、おもにこの滑り台1本だけです。他の子どもたちは、より高い塔へ上ったり、そこからもっと長い滑り台を滑ったり、ネットやロープを使った遊びを楽しんでいます。
それでも車いすの子どもとともに繰り返しここを訪れる家族たちがいます。
「たった一つだけど、ここには遊べる遊具があるから」
岡山市の「浦安総合公園」をご紹介しました。