No.09 人と人を「つなぐ」公園

北海道札幌市「藤野むくどり公園」

 このところ「国内事例」では、大きな「国営公園」のレポートが続いていましたが、今回ご紹介するのは住宅地の中にある、小さな「街区公園」です。
 以前は「児童公園」と呼ばれていた「街区公園」は、全国に約7万6千箇所あり、子どもたちにとって最も身近な公園です。皆さんのお近くにも、ささやかだけど地域の人々に馴染みの公園があるのではないでしょうか?

写真:公園の入り口。「藤野むくどり公園」と書かれた木の看板の背後に複合遊具

 今回の主役「藤野むくどり公園」もそんな街区公園の1つ。
 しかし障害の有無を問わずみんなが遊べるように作られたことで、1996年の開園以来、公園のバリアフリーやユニバーサルデザインの優れた事例として専門書や雑誌などに取り上げられてきたちょっと有名な公園なのです。
 いったいどんな工夫がされているのでしょうか。

写真:斜めに傾けて設置された案内板。手前が低く(地面から60センチ弱の高さ)、奥が高い

 こちらは公園の入り口にある案内板。 公園の紹介や、公園の名前にもなっている「むくどり」についての説明が書かれており、それぞれの紹介文の下には同じ内容が点字で表記されています。
 また公園の地図も描かれていますね。それにしても、パッと見てわかりやすい大きな地図(左)と、それを縮小した小さな地図(右)、2つもあるのはなぜでしょう?

写真:案内板の小さな地図のアップ。点字や凹凸があることがわかる

 よく見ると、小さい地図の方はラインやエリアが凸表示で記された触地図になっていて、点字の説明もありました。
 以前、視覚障害者(全盲)の方から、「触地図を指先で触って場所や位置関係を理解するには、広い範囲に描かれた大きな地図よりも、ある程度コンパクトなサイズの方が分かりやすいんです」というお話を伺ったことがあります。小さな地図はそのための工夫なんですね。

 公園の周りを巡る園路には、黒いゴムチップの舗装が施されています(左の写真)。
 要所には点字ブロックがあるほか、片側あるいは両側に手すりと、段差を低く抑えた縁石があり、いずれも弱視の人が見えやすいようにと黄色が使われていました。また手すりには、場所の簡単な説明や案内板の位置を示すための点字のプレートが、数多く付けられています( 右の写真)。
 この公園を作るきっかけの1つとなったのが、視覚に障害を持つ男の子とお母さんの声でした。数々の細やかな配慮や工夫の背景にある、想いの深さがうかがわれます。

写真:砂場。園路からほぼフラットでアクセスできる。砂場の表面に猫避けのネットカバーがかけられている

 こちらは砂場です。
 じつはここ、もともとあった土地の高低差をうまく利用した作りになっています。
 こちら側からアクセスすると、地面と同じ高さの普通の砂場。(アプローチには点字ブロックや手すりが付けられています。遊ぶ時は、砂場の表面にかけられている猫避けのシートをめくってどうぞ)

写真:砂場の反対側。こちらは地面が60センチほど低いので、砂場がテーブルくらいの高さになっている

 一方、反対側からアクセスすると、車いすのまま利用しやすいテーブル状の砂場! 障害のある子もない子も同じ砂場で一緒に遊ぶための工夫ですね。

写真:ブランコエリア。周りは手すりや点字ブロックと植栽で囲まれ、子どもが誤ってエリアに踏み込む危険を防いでいる

 こちらはブランコエリアです。2つの特徴的なブランコが吊られています。
 左は、大人が子どもを抱いて一緒に乗れるよう、座面がゆったりと大きなゴム製シートのブランコ。右は、背もたれとベルトの付いた椅子型ブランコです(ちなみにこのタイプの椅子型ブランコでは、これが国産第1号だそうですよ!)。
 どちらも低めの梁から吊られているので、ブランコがダイナミックに大~きく揺れるということはありませんが、乗り心地は快適。子どもたちにもお母さんにも人気があるそうです。

写真:噴水。やや平たい巻貝のようなモニュメントの頂上から、水が時計回りに流れ落ちる

 公園の一角から心地よい音が響いています。音源を辿ると小さな噴水がありました。
 その音は「ジャー」でもなく「ザー」でもなく、まるで森の中を流れる小川のせせらぎを聞いているようです。(音に変化をもたせるため、造形が工夫されているのだとか。)さらに水は見ても触っても楽しめる素材なので、子どもたちにとっても魅力的なスポットですよね。
 じつはこの噴水、「車いすからも水に触れるように」と小さな半径で作られたのですが、実際はやや届きにくく、アクセシブルにするには、「近さ」とともに「高さ」もポイントになることが分かったそうです。

写真:2本の滑り台がある複合遊具。手前に大きなモミの木

 芝生広場の脇にあるのはメインの複合遊具です。
 低いデッキからは緩やかな傾斜のローラー滑り台、高いデッキからは途中で波を打った形のステンレスの滑り台が伸びています。楽しそうですね! デッキ側に回ってみましょう。

写真:複合遊具の側面。デッキへ通じるアクセスルートがある

 車いすのまま低いデッキにアクセスできるよう、スロープがありました。奥には階段ルートもあります。

写真:幅60センチのローラー滑り台。滑り出し部分はデッキ床から40センチほど高く、長さ1メートルまで水平のまま。その先から傾斜が始まる

 上の写真は、低いデッキにあるローラー滑り台のスタート地点です。
 滑り台は床より一段高くなっているので、車いすの子どもがシートからスムーズに乗り移ることができます。また、滑り台の横からアクセスしやすいようにと、滑り出し部分は片方の側壁がありません。
 さらにここは水平部分が長めに設けられているため、滑り台に乗り移った途端、体勢が整わないまま子どもが滑り出してしまう!という心配もありません。滑走面の幅は少し広めで、お父さんやお母さんが子どもを抱えて滑るのにも適しています。

 工夫がいっぱいのこの滑り台は多くの人に好評だそうで、愛用者の中には重い障害を持つ子どももいます。ユニークな滑り方としては、滑り台の上に毛布を敷き、その上に子どもが寝た状態で滑る! 下に到着したら滑り台の脇から大人が、子どもの乗った毛布を引っ張って上まで逆戻りし、また滑る!・・・を繰り返す人もいるそうです。
 傾斜を抑えたこの滑り台ならではの楽しみ方、と言えそうです。

写真:2階デッキへ通じる階段。傾斜は約55度。両側に高めの手すりが付いている
写真:2階デッキから見下ろした階段

 こちらは、低いデッキから上の高いデッキに登るための階段です。
 階段の傾斜はかなり急で、幅は50センチと狭めです。この狭さは、子どもが両側にある柵をしっかり握って登るのには好都合ですが、ある時、利用者さんから思いがけない声が寄せられたそうです。

「障害のある子どもを抱えて登るには、階段が狭くて急なので怖い。
もっと幅が広ければ、大人二人で子どもを抱えて安全に登ることもできるんだけど」

 もちろんこの階段は、大人が障害のある子どもを抱えて上がることを想定した作りにはなっていません。しかし利用者さんによると、低い方の滑り台も楽しいのだけれど、高い滑り台を滑った時の子どもの笑顔は格別なのだそうです。その嬉しそうな表情を見ると、つい何としても上の滑り台を滑らせてあげたくなる・・・というお気持ちからのコメントでした。

 遊具の「てっぺん」が持つ、子どもにとっての特別な価値を、改めて感じるお話でした。

 
 むくどり公園には他にも、吊り橋やマット、休憩場所などにも、車いす利用者や障害を持つ人のための工夫がいっぱいでした。
 今回、むくどり公園を案内して下さったのは、「むくどりホーム・ふれあいの会」の代表を務めていらっしゃる柴川明子さんです。私たちの活動の参考にと、公園のできる経緯から完成後の取り組みまで、大変貴重なお話をたくさん聞かせて下さいました。

 柴川さんはかねてから「障害がある子もない子も一緒に遊べるバリアフリーの公園の実現」という夢を抱かれていたそうです。ある時、柴川さんが、「せっかく近所に公園があってもそこでみんなと遊ぶことが難しい」という視覚障害の男の子とそのお母さんのお話を聞かれ、また同じ頃、札幌市が新しい公園用の土地を探しているという話が舞い込んだことが、夢の実現へ向けて動き出されるきっかけとなりました。

 ご自宅の前に所有しておられた土地を公園用地として提供されるなど、公園づくりに関して多岐に渡り惜しみなく力を注がれた柴川さん、そしてその夢に共感された地域の人々と行政・企業との連携で「むくどり公園」は完成しました。  
 公園が完成した後も、花壇の世話や芝生の手入れといった維持管理や、季節のイベントなどに、地域の多くの方がすすんで関わっておられるそうです。

 さらにこの公園がいっそう活用されるようにと、柴川さんはご自宅を「障がいのある人もない人も赤ちゃんからお年寄りまで、だれもが気軽に立ち寄ることのできる友だちづくりの家」として、決まった日に(現在は週3日)開放する取り組みも始められました。
 それが「むくどりホーム」です。

写真:むくどりホームの入口。子どもの三輪車などが置かれ、壁には「あいています」の手作りタペストリーが掛かる。手前は柴川さんが子どもたちのために作られた多目的トイレ

 会員制でもなく、事前の予約も必要なく、いつ、だれが、来ても、帰ってもよい。
 あらゆる人を迎え入れ、緩やかにつなぐこのホームは、噂を聞いて訪れるお母さんと赤ちゃん、近所の子どもたち、遠くから車でやってくる親子、ヘルパーさんと電車で通う青年、学生さん、社会人の方、子どもたちに手芸や工作を教えるのを楽しみにしておられるお年寄り・・・と、様々な方の交流の場になっているのだそうです。
「決まった人ばかりでなく、いつ、どんな人が来るかわからない。 だからこそ『今日はどんな出会いがあるかしら?』 といつも楽しみなんですよ」
柴川さんは、こう言って微笑まれました。

 そんな柴川さんのお人柄と、ホームのあたたかな雰囲気、そして多くの人が関わってできた工夫いっぱいの公園に惹かれて、たくさんの方がここを訪れ、つながっていくのですね。
 「公園」というハード面と、「人のつながり」というソフト面が一体となり、この小さな街区公園が地域住民に愛される場所になっていることを実感しました。

写真:むくどり公園。花壇に咲くルピナスの花と緑の芝生広場の向こうに、西日に照らし出された複合遊具

 そして先月(2008年8月)、「藤野むくどり公園」の開園12周年を祝う記念会が開かれました。

 12年前と変わったこと・・・
 ○シンボルツリーとして植えたモミの木が、2倍以上の高さに伸びたこと
 ○新品だった遊具が、たくさんの子どもたちにしっかり使い込まれていること
 ○開園当初はお母さんと一緒に遊びに来ていた子どもが、
  今、ホームの活動の企画や準備に携わるなど、
  それぞれに大きな成長を遂げたこと

 12年前と変わらないこと・・・
 ○「ここに来るのが楽しみ。ここなら私も遊べるから」
  「うちの近くにもこんな公園があったらいいのに」 という声が、
  今も多くの人から寄せられること

 札幌市から、地域の人々が集う憩いの場「藤野むくどり公園」をご紹介しました。

(今回、快く取材に応じて、貴重なお話や資料を提供してくださった柴川明子さんとこの日お会いした皆様に、心から厚くお礼を申し上げます。
「むくどりホーム」では、様々な活動や勉強会なども開かれています。
詳しくは「むくどりホーム」のホームページをどうぞご覧下さい)