以前、当サイトでもご紹介した国営昭和記念公園にあるUDの遊び場「わんぱくゆうぐひろば」は2013年にリニューアルされ、その後も改良が加えられているのをご存じでしょうか。(中には、みーんなの公園プロジェクトから改善提案をさせていただいた箇所も)
今回は、多様な子どもに豊かな遊びを提供するための挑戦を続ける、新「わんぱくゆうぐ」から追加レポートをお届けします。
最も大きく変わったのは、メインの複合遊具です。
改修前はこんな感じでした。
アクセシビリティを考慮したくさんのスロープがあるものの、遊びの要素は少なめ。
そしてリニューアルされた複合遊具がこちら!
デッキの高さが増し、滑り台は高さや種類が異なるものを取り揃えるなど遊びの要素も充実。子どもたちに人気です!
もちろんスロープ付きで、出入り口は2カ所。
その一方から上った最初のデッキの中央には、大きなイチョウの木が立っています。
じつは以前の複合遊具も、スロープやデッキが既存の木を取り囲むようなデザインになっていました。夏は木々が涼やかな緑陰を、秋にはきれいな落ち葉をもたらしてくれるなど、自然物と人工物の融合はこの遊び場の魅力の一つでもあります。
ただリニューアルされた当初は、デッキのスペースが十分ではありませんでした。
これでは、車いすで通り抜けるのは困難…。(特に下図左の☆印地点)
そこで新たなデッキが追加され(右の黄色の部分)、標準的な車いすが通過できるようになりました!
とはいえ、車いすユーザーが実際にこのデッキを動き回ったり、上からスロープを下りてきて木の前で安全に止まったりするには、もう少しスペースがほしいところ。
計画や設計の初期段階から当事者も参加するなど多様な人がプロセスを共有することで、追加の工事を防いだり、工夫の効果を最大限に引き出したりできそうです。
ところでこのデッキは、新しく導入された遊具にもつながっているんですよ。
それがこちら!
アメリカやオーストラリアのUD公園でおなじみの、大勢で乗り込んで船のように揺れるタイプの遊具です。
こちらの写真と同じ遊具は、日本の一般公園でも導入例があり人気なのですが、昭和記念公園では揺れ幅が抑えられているようでした。
このように側面に開口部のあるタイプだと、子どもが動く船からうっかり転がり落ちそうになる他、ここでは隣の築山で遊ぶ子どもの通り道と近接していることもあっての安全対策かもしれません。
これまで日本になかったタイプの遊具だと、たとえ海外で普及し評判でもなかなか導入されにくいと聞きますが、ぜひ先進地の情報をもとに、実際に何がどの程度危ないのか、留意点は何かなどをよく見極めながら、子ども達に本来の楽しさを体験してもらいたいですね。きっと、さらなるUD遊具の輸入や国内での開発のきっかけとなってくれるはずです。
さて、複合遊具のスロープルートは、全部で5つのプレイデッキをつなぎながら、誰もが一番高いデッキまで到達できるようになっています。
途中のプレイデッキへは、階段や梯子など複数の手段でアクセスできる他、
すべてのデッキには、見たり、触って動かしたり、音を鳴らしたりできるプレイパネルや伝声管などの遊び要素が!
また機関車を模した楽しいデザインのデッキもありますよ。
一部は、かがんでくぐり抜けるチューブ状になっているので、車いすユーザーがそのまま先頭車両まで行けるわけではありませんが、デッキ下にも遊びのスペースがあるなど工夫が光ります。
じつはリニューアル当初、これらのデッキの一つに危険な箇所がありました。
下りスロープの先が階段の開口部になっていたためですが、後に、転落防止のガードが追加されました!
これで、スロープを下りてきた車いすユーザーが階段の手前で止まりきれなかった時、または上のデッキから赤ちゃんを乗せたベビーカーがひとりでにスロープを下っていってしまった時などに、そのまま階段へ転落してしまうリスクが大幅に減りました。
ただこの階段は、車いすや歩行器を使用する子どもが左の滑り台を滑った後に、介助者が空いた車いす等を下へ届けるルートとして、あるいは子どもが自力で上のデッキへ戻るルートとしても使われるので、その際の通過はしにくくなりました。
こういったケースの安全対策としては他に、階段などの大きな開口部は下りスロープの正面を避けて配置する、または段をあえて一つ増やし、デッキから一段上がってから下り始める階段にするといった選択肢もあります。
さて、遊具以外でもこんな変化がありました。
こちらの背もたれ付きブランコは以前からあるもので、障害の有無を問わず子どもたちに人気です。
そこへ、左右の支柱の表と裏にこんな看板が追加されていました。
「車いすの方もご利用いただける設計になっています。
固定ベルトが原っぱ南売店にあります。ご必要な場合お申し出下さい。」
(これは車いすのまま乗り込めるブランコではないので、『車いすの方』という表現は厳密には当てはまらないのですが、それはさておき…)
文中の「固定ベルト」というのは、体のずり落ちを防ぐため、ブランコシートの3カ所についている小さな金具に着脱できるT字の簡易シートベルトのこと。(貸し出しを担う売店の方が、丁寧に使い方を示して下さいました)
障害により体幹を支えたり、手でチェーンを握ったりすることが難しい子どもの中には、背もたれさえあればブランコを楽しめる場合も多いのですが、安定した座位を保つことが難しくずり落ちが心配な子どもにとって、このベルトの貸し出しはとても嬉しいサービスです。
ただ、車いすマーク(障害者のための国際シンボルマーク)と同じ青と白の目立つ看板が、1つのブランコに4枚も掲示されていると、いかにも『障害者用の特別品』という印象がしませんか?
これでは、障害のない人(いえ、障害のある人だって)気軽に利用しにくく、せっかくのインクルーシブな遊具の良さが損なわれかねません。
そこで後にこう修正されました!
「体のずり落ちを防ぐ安全ベルトの貸し出しをしています。 必要な方は原っぱ 南売店にお申し出下さい」
色は、周囲になじみながらもコントラストの効いたこげ茶色と白に、また枚数は表と裏の2枚に変更。これなら必要な情報をきちんと伝えながら、誰もが楽しめる人気のブランコの本領を発揮できますね。
さらに、遊び場ではこんな変化も。
以前は広場にイチョウの大木がたくさんあったのですが、大量の銀杏が臭いや汚れのもととなっていたり、木が傷んだりしたこともあり、徐々に伐り倒されていました。
切り株だけがいくつも並ぶ光景にはもの淋しさがあったのですが、ある時、劇的に姿を変えた1本の木が!
枯れてしまったイチョウの幹から、キリンやゾウなどの動物たちが花と戯れる姿をチェーンソウで切り出したトーテムポールです。
この作品を手がけたのは、同公園の管理運営を担当する企業グループのホテルの氷彫刻師さんだとか。動物たちの優しい表情や愛らしいしぐさが巧みに表現されていますね。
あやうくただの切株になるところへ新たな命を吹き込まれたイチョウの木は、遊び場の中央に立つ楽しげでシンボリックな存在となっていました。
1つ残念な点を挙げるなら、「さわらない」「のぼらない」の看板付きだということ。
多くの子どもがこのかわいい動物たちに引き寄せられますが、遊具ではないため、むやみに登ると破損や転落の危険があるのです。
しかし海外にはこんな事例がありました。
当サイトの「海外事例No.13」でご紹介した、ロンドンの王立公園ケンジントンガーデンズにある「ダイアナ・メモリアル・プレイグラウンド」。
UDに配慮した遊び場内の大木に、同じくチェーンソウで彫刻が施されていますが、こちらは子どもがこれで遊ぶことを前提にこんな工夫が…。
・破損しにくく、また簡単には登れないよう、幹の太さを残す。
・足掛かりや手掛かりとなるくぼみをつけるのは、幹の下の方だけ。
・地面はウッドチップで転落の際の衝撃を緩和。
もちろん禁止事項を書いた看板はありません。
管理や安全上の課題と、子どもの自由な遊びとを両立させるアイデアといえます。
・・と、ここまでいろいろな課題に触れてきた今回のレポートですが、ひとつ正直に打ち明けます。じつはその多くが、私たちも「わんぱくゆうぐ」のリニューアルを機に初めて気づいたポイントでした。
UDの遊び場を進化させるには、大きく3つのステップがあります。
ステップ1:計画や設計の早い段階から、当事者を含む多様な人と対話を重ねて工夫を凝らす。
ステップ2:完成後に明らかになった不便さや課題に、できる限りの対応策を講じる。
ステップ3:有効だった工夫や対応策、またより適切だったはずの根本的な解決策を広く共有し、次に活かす。
たとえステップ1で障害を持つ人や関係者にヒアリングをしても、必ず正解にたどり着けるわけではありません。実際にできてからでなければ気づかない点がどうしても出てくるものです。
そこでステップ2。ここ「わんぱくゆうぐ」ではリニューアル後、ご紹介した以外にもいくつかの改善が図られています。 一方で、後からでは改修が難しく対応が困難な課題も残りました。(例:「UD公園のヒント国内編No.12」複合遊具のスロープ下り口と築山のトンネル出口の交差点)
だからこそのステップ3です。それぞれの公園の価値ある挑戦をその場限りで終わりにしないためのもので、このレポートの意図もそこにあります。
より質の高い遊び場をめざすリニューアルがあったからこそ得られた貴重な教訓が、いよいよ各地で広がり始めたインクルーシブな公園づくりに活かされることを願います。
訪れる度に新たな発見に出会える国営昭和記念公園からの追加レポートでした。