公園を知る「海外事例」

No.05 公園訪問inカリフォルニア・アメリカ(後編)

シェーンズ・インスピレーションより

 前回の「公園訪問inカリフォルニア(前編)」では、NPO “Shane’s Inspiration”(シェーンズ インスピレーション)が7年前(2000年)に作った第1号の公園と、そこで開かれているプレイイベントをレポートしました。
 今回はこのNPOが手掛けた別の公園で見かけた、ユニバーサルデザイン(UD)のヒントや、そこで遊ぶ子どもたちの様子をご紹介します!

写真:公園の入り口

 こちらは昨年(2006年)10月、閑静な住宅街の近くにオープンしたばかりの公園です。この公園が誕生するきっかけを作ったのは、ある障害児のお母さんでした。

 前回レポートした誰もが利用できる公園の存在を知ったこの女性は、「自分たちの町にもこんな公園を作ろう」と地元のPTAの人たちに声をかけ、市役所に話を持ちかけ、地道な活動で少しずつ支持者を増やしていきました。 彼女の熱意とシェーンズ インスピレーションのサポートで、支援の輪は友人や親戚から学校関係者、地域住民、さらには自治体へと広がり、ついに3年がかりで素晴らしい公園が完成したのです。

 ではこの公園に取り入れられた、特徴的な工夫やポイントをいくつかご紹介しましょう。

写真:砂場の中にあるプレイデッキ

 広い砂場の真ん中に、出島のような形のプレイデッキがあります。車いすで容易にアクセスできるこのデッキの周りには、砂をすくい上げたり、洗面台のようなテーブルにためたり、穴や筒から流し落としたり、いろいろな遊び方を楽しめるポイントがあります。

 デッキの上をご覧下さい。黄色い布製の大きな屋根が設けられていますね。晴れ渡った青空と輝く太陽の下で遊ぶのは気持ちのよいものですが、熱射病などを避けるためには、適度な日陰も必要です。
 特に幼い子どもや、障害のために体温調節が難しい子どもたちにとって、1箇所にとどまって遊ぶ砂場のような場所に日陰があると、とても助かります。少し遊んではどこかの日陰に避難して休む、ということを繰り返す必要がなく、時間を気にせず、友だちと一緒に遊ぶことができるからです。
 またこれは、子どもの遊びに付き添う大人にとっても、嬉しい日陰かもしれませんね。

写真:プレイデッキから橋を渡って直接乗れる大型遊具

 こちらは複合遊具のプレイデッキに接続している大型シーソーのような乗物です。 電車のボックス席を広くしたような形で、向かい合ったベンチには数人ずつ座ることができ、ベンチの間のスペースには車いすのまま乗り込むことも可能です。

 乗り込んだ人たちが力を合わせてこぐと、波に揺れる船のような動きをするこの遊具。
 今までこれだけが単体で設置されている公園を見たことはありましたが、複合遊具の一部に取り込まれたものに出会ったのは初めてでした。
 この公園を計画する段階で出された、地元の子どものアイデアから生まれたそうです。

写真:隣どうしに並んだ2種類のブランコ

 安全ベルトの付いたシート型のブランコと、普通のブランコが隣どうしで並んでいます。UD公園でよく見かける光景です。「ここにもある、ある」と、写真だけ撮って帰ったのですが、後で知ってびっくり。アメリカ初の特殊機能付きブランコでした。
 名前を「ハーモニーブランコ」といいます。なんだか心地よい音楽でも聞こえてきそうですが、そうではなく、「ハーモニー=調和・協和」という意味です。

 たとえば、自分で座位を保つことが難しい子どもが左のシート型ブランコに乗り、右の普通のブランコに友だちが乗ったとします。右の友だちが自分のブランコをこぐと、左のシート型ブランコもその動きに合わせて揺れるというのです。
「障害のある子どもとない子どもが一緒に遊ぶ」という理想を、一つの形にした遊具です。

 実際、どんなふうに揺れるのか、乗り心地はどうなのか、いろいろ試したいところですが、気付くのが遅すぎました。どなたか情報をお持ちの方は、ぜひご連絡下さい!

写真:トイレの建物の外に並んだ黒い大型の箱。隣には車いすマークの看板

 トイレです。ちなみに中は車いすでも入れるよう、広いスペースと簡単な手すりなどがあります。日本の多機能なトイレと違い、便器も洗面台も極めてシンプルでとにかく頑丈そうです。これは悪質な利用者による破壊などの被害を抑えるためですが、トイレの外にある黒い大きな金属製の2つの箱も、同じ理由で設置されています。  

 一見すると、危険な機械設備のカバーか、猛獣を護送するケージのような佇まいですが、この黒い金網の中にはジュースとスナックの自動販売機が入っています。営業中です。

 日本では屋内外を問わず、町中のいたる所に設置されている自動販売機ですが、アメリカの人から見ると、「確実にお金の入っている物をあんなに無造作に並べておいても、壊されたり盗まれたりしないなんてすごい!」と変に感動的なことのようです。 で、こちらがアメリカ流? やむを得ず屋外にぽつんと置かざるを得ない自動販売機は、このガッチリとした黒い箱で鉄壁のガード。しかし分厚い金網のせいで商品はよく見えないし、狭い檻の隙間からお金を差し込んだりボタンを押したりが大変・・・いえ、ここがユニバーサルデザインな訳ではありません。  

 自動販売機の隣にある、車いすマークの四角い看板をご覧下さい。下にコンセントがあります。ここは電動車いすのバッテリーを充電するための場所なのです! 後日、公園設計に携わっているNPOスタッフの方に伺った言葉が印象的でした。 「こうした充電ステーションを設けることはとても大切なんだよ。 私たちの公園に来る子どもたちは、つい長時間遊んじゃうからね(笑)」

 決して広い敷地ではないのに、車いすのバッテリーが切れるまで夢中で遊び回れる公園・・・

 「充電ステーション」と書かれた四角い看板が、どこか誇らしげに見えます。

写真:ロサンゼルス動物園の入り口

 場所は変わって、こちらはロサンゼルス動物園です。
 この動物園の中にも、シェーンズ インスピレーションが関わって作った小さな遊び場があります。もちろんスロープあり、多様な子どもが楽しめる遊具あり、の場所ですが、動物園らしいポイントをご紹介しましょう。

 車いすや歩行器でも快適に走り回れ、子どもの転倒や落下の衝撃を和らげるクッション性を備えたゴム製の地面は、水面に見立てられています。遊び場の一方には、水の中から流木に這い上がろうとしているワニ(左の写真)と、もう一方には顔と背中の上の方だけを水面に出し、周りを眺めているカバ(右の写真)がいます。(作り物ですよ。)
 
 ものすごくリアルなこの2匹に対して、子どもたちはいろいろな反応を見せます。 幼い女の子は、懸命にお父さんの手を引っぱって小さな声で「そっちは嫌!こっち行こ。ね、怖いから」と、ワニの半径2メートル以内に近づこうとしません。
 大きな子どもたちは、「見て!本物みたい。かっこいい!」とワニを触りまくったり、またがって写真を撮ってもらったりしています。
 滑り台を降りてきた子どもが、「わーっ」と走って来たかと思うとカバの頭にぴょんと飛び乗って、また「わーっ」と遊具に駆け戻っていきます。  

 たった今、すぐそこで見てきた動物が、自分たちの遊び場にもいるのです!

 視覚に障害をもつある女性のお話を思い出しました。
「子どもの頃、デパートの遊園地かどこかに、妙にリアルな馬の乗物があったんです。お金を入れるところもないし、動いたりもしないんですけどね。でもその馬をゆっくりと触ってみて『馬ってこんな格好で走るんだ!』と気付いたことを覚えています」

 こうしたオブジェはただ見るだけの置物や飾りではなく、子どもにとって特別な価値を有することをあらためて実感しました。

写真:広い芝生と大木の向こうに見える小さな遊び場

 最後にご紹介するのは、ロサンゼルス市東部に位置するLincoln Park(リンカーンパーク)という公園の一角にある遊び場です。
 見上げるような大木と、広々とした芝生に囲まれた環境ですが、遊び場自体の面積は30メートル四方くらいのささやかなものです。私たちが訪れたのは平日(夏休み期間中)の夕方でしたが、たくさんの子どもたちがこの公園で遊んでいました。

 ブランコのエリアでは、シート型ブランコも普通のブランコも大人気です。 1つだけある複合遊具の上を、男の子も女の子もにぎやかに駆け回っています。 何人かの子どもは靴やサンダルを脱ぎ捨てて、裸足です。遊び場全体がゴム製の地表面なので、安心して気持ちよく走り回れるのでしょう。  
 
 一人の女の子が声をかけてきました。
「なにやってんの?」
「この公園の写真を撮ってるんだよ。すごくいい遊び場だね」
「うんっ!大好き!」
 女の子はとびきりの笑顔でした。

 ユニバーサルなアクセシビリティを持つ公園とは、
 決して障害をもつ子どものための公園ではありません。
 「誰もが」楽しく快適に利用できる公園を目指しているのです。

 そして、この「誰もが」と並ぶもう一つのポイントは、「目指している」という点です。つまり、今回ご紹介したシェーンズ インスピレーションの公園も、UD公園の究極の完成形というわけではありません。最初の公園ができてから7年。今でも様々な利用者から「ここがこうなっていたら、さらによい」という新しい注文や指摘があるそうです。

 スタッフの方の言葉です。
「私たちは、作りながら学び続けているんだ。今も、そしてこれからも」

「公園訪問inカリフォルニア」では、シェーンズ インスピレーションの公園の工夫と、そこで遊ぶ子どもたちの様子を、2回にわたってお伝えしました。
 なお、このNPOの活動のもう一つの柱、障害児と健常児が一緒に遊ぶ機会を通して、お互いを認め合い、理解を深め、友情を育むプログラムについては、またあらためてご紹介したいと思います。  

 今回、快く取材に応じて、貴重なお話や資料を提供してくださったNPO “Shane’s Inspiration”(シェーンズ インスピレーション)の皆様に、心から厚くお礼を申し上げます。