公園を知る「海外事例」

No.06 前後がポイント! 滑り台

アメリカ・バウンドレス プレイグラウンドより

 このコーナーでは前回まで、2度に渡ってアメリカ西海岸カリフォルニアのNPOシェーンズ インスピレーションのレポートをお届けしました。
 今回から再び東部コネチカットのNPO「バウンドレス プレイグラウンド」の公園の特徴をご紹介していきます。(ちなみにシェーンズの最初の公園は、バウンドレス プレイグラウンドの協力でできたものですから、どちらのNPOの公園も同じような優れた特徴や工夫を備えています。)

 今回のテーマは、滑り台です。 滑り台は公園遊具の代表格!
 子どもたちに大変人気の高い遊びの一つですね。

 一口に滑り台と言っても、いろいろな種類があり、シンプルで一般的な滑り台の他、らせん型、トンネルのように上部を覆われたもの(左の写真)や、ローラー滑り台(右の写真)もあります。一つの遊び場に異なる種類の滑り台があると、子どもが選んだり挑戦したりできる幅が増え、遊びがより豊かになりますね。

 さてこの滑り台。じつは、車いすに乗る子どもにとってはとても遠い存在です。自分の力でスタート地点まで上がることが難しいためです。

 バウンドレス プレイグラウンドの滑り台は、皆、複合遊具のプレイデッキから延びています。そしてどのプレイデッキにも車いすのまま行けるようになっています。つまり車いすに乗る子どもも、全ての滑り台にアクセスできるということです!
 もちろん滑る時は車いすから降りて、他の子どもたちと同じように滑ればよいのですから、スタート地点にさえ行ければ問題解決!? いいえ。ここには、滑り台を「滑る前」と「滑った後」のことを考え、さらなる工夫が施されていました。

写真:段がある滑り台のスタート地点

 まずは滑り台のスタート地点を見てみましょう。 滑り出し口の手前は、プレイデッキの床面より高くなっていて(ここでは高さ25センチほど)、子どもが足を伸ばして座れるくらいの十分な広さがあります。
 
 ここにわざわざ台を設けるのには理由があります。前方の床が高くなっている方が、車いすから降りやすいのです。(皆さん、試しに、座っておられるいすから手の力だけで床に降りてみて下さい。高低差が40~50cmあると結構大変です。半分の高さから床に降りる方が、ずいぶん楽に感じませんか?)

 さて、デッキからこの台への上がり口は2つあります。真ん中の柱より右側は一段で上がるパターン。柱より左側は同じ高さを2つに分割した、2段の階段で上がるパターンです。
 車いすの子どもは、右側からアクセスするのが容易ですし(柱には、乗り移りの手助けになるつかまりバーもついていますね)、小さな子どもは高い段を一度に上がるよりも、安全な階段側を選ぶことができます。

 さらに車いすの子どもが滑り台を滑った時、右側の上がり口に車いすが残されていても、左側の階段は空いているので、他の子どもたちはそちらから続けて滑り台を楽しむことができます。

 今度は滑った後のことを考えてみましょう。

写真:らせん状の滑り台と階段

 こちらはらせん状の滑り台です。滑り台のすぐ右に幅の広い階段がありますね。車いすを降りても自分で移動ができる子どもは、この階段を使ってスタート地点のデッキまで戻ることも可能でしょう。自力での移動が難しい子どもの場合は、誰かが自分の車いすを持ってきてくれるまで下で待っていることになります。

 その誰かが兄弟や友達といった子どもの場合、左のスロープ伝いに車いすを押していくでしょうし、大人の場合は「ヨイショ!」と車いすを抱えて右の階段を下りる近道をとることもできます。

 バウンドレス プレイグラウンドのスタッフの方は、次のように教えてくれました。

「滑り台の上に残された車いすを、いかにスムーズに下の子どもまで届けるか、 これは以前から私たちの課題なんですが、この階段はその解決策の一つです。 他にもベビーカーでデッキに上がった親子が一緒に滑り台を滑ることがあるでしょう? この階段は、その後親が子どもを抱いたまま楽にデッキに戻ることも可能にするんです」

 なるほど! ですが、全ての滑り台の横にこういった幅広で安全な階段がついていると、遊び場としての魅力が薄れてしまいます。そこで、例えば3つのプレイデッキを持つ複合遊具で1番目と3番目のデッキに滑り台がある場合、真ん中の2番目のデッキに階段をつけるなど、それぞれのケースに合わせて異なる工夫がされているようです。

 さて、滑り台に施されている工夫は、車いすに乗る子どものためだけではありません。

写真:入り口に向いた滑り台

 こちらの滑り台は、小さい子ども向けの複合遊具のものですが、滑る部分(滑走面)が右にカーブしたコース取りになっています。曲がりながら滑る楽しさを味わえると同時に、まっすぐ滑るのに比べてスピードが出過ぎないという特質もあります。

 そして右側を向いて滑り終えた子どもの目に、最初に飛び込んでくるのは、複合遊具の登り口です。「もう一回!」と自然にそちらに駆け出したくなるよう、遊びの意欲を引き出すデザインになっているのです。

写真:3つのコースが並ぶ滑り台

 こちらは大きな子ども向けの複合遊具の、一番高いデッキにある滑り台です。幅の広い滑走面が3つのコースに区切られています。コースはそれぞれ、少しカーブしていたり波打っていたりと、ちょっとした変化がつけられています。「今度はこっちを滑ろう!」と選べるのも魅力ですが、何より、障害がある子もない子も、兄弟や友達と3人並んで「せーの!」で一緒に滑れるなんて、とても楽しそうですよね。
 
 日本の、ある車いすの女性の言葉です。
「滑り台はね、おんぶして上まで連れてってくれる人がいる時だけ、滑れた」

 多くの人にとって馴染み深い遊具、滑り台――
 滑る前後までをトータルに考えたこのような工夫で、確実に増やせる子どもの笑顔があります。