
多様なすべての子どものための遊び場づくりを推進するニューサウスウェールズ州の事業“Everyone Can Play”をきっかけに誕生したバラエティ・リヴィズプレイス・グレンフィールド。
様々な遊び体験とさりげない工夫にあふれたこの遊び場は、「より多くの子どもが遊び、楽しみ、活動的になれる遊び場の設計と開発」が評価され、同国のスポーツ・レクリエーション・遊びのイノベーションアワード(the Australian Sport, Recreation and Play Innovation Award 2021)を受賞しています。
前回のレポート(前編)では、敷地にぐるりと巡らされた主要園路の内側から「水遊び」エリア、そして「登る・滑る・バランスをとる」などの遊びがある複合遊具エリアをご紹介しました。
後編は、同じく園路の内側にある「遊具エリア」からスタートです!

まず見つけたのは「回る」タイプの遊び。
回転盤と地面がフラットで、車いすや歩行器のユーザーもスムーズに乗り込めるアクセシブルな回転遊具です。

子どもからお年寄りまで一緒に楽しめるこうした回転遊具は人気が高く、各国のメーカーが開発に乗り出しています。
こちらはオーストラリア製で、3つのアーチ型手すりと中央に円いベンチ付き。
また回転盤の表面(床面)がただの鉄板ではなくゴムチップ仕上げというのも特徴的です。小さな子どもや立位の不安定な子どもが、ふらついて転んだり床に座り込んだりしても安心。「自分らしくのびのび遊ぼうよ!」というウェルカムな雰囲気づくりにも一役買っていそうです。
その隣は「揺れる」遊びのコーナー。
連続した長い梁に5つのブランコが並んでいます。

シートは全部で4種類あり、梁の内側には幼児用シート、皿型ブランコ、親子などで向かい合って乗る二人用シート(Skippy Swing Seat)が、そして両端にはリクライニングした姿勢で体を預けられるオレンジ色のシートが架かっています。
このオレンジのシート(Inclusive Boat Seat)、とってもシンプルなつくりですよね。
日本のインクルーシブ公園でよく見かける背もたれ付きの椅子型(固いポリエチレン成形で、ジェットコースターのような安全ハーネス付きも)と比べるとかなり軽量。
一枚物の柔軟なシートは、脊柱側弯など変形がある子どもの背中にもフィットし、揺れで体がずれ落ちる心配も少なめです。
人によっては「もう少し横幅がほしい」といったケースはありそうですが、安定した姿勢がとりやすくハンモックにも似た乗り心地はなかなか快適です。
続いては「跳びはねる」遊び。
なんと車いすに乗ったまま楽しめるトランポリンです!

ゴム製のシート(ネット)を地面とほぼ同じ高さに設えるこうしたトランポリンは、先ほどの回転遊具と同様にたいへん評判で、ヨーロッパやオーストラリアから他地域へと広がりを見せています。
様々なサイズや形のものが展開されていますが、こちらは車いすユーザーと介助者が一緒に乗り込める広さの長方形タイプ。
また並べて2つ設置したことで、隣り合う二人が高さや技を競い合ったり、若者が外側から助走をつけて走り込み大きな連続ジャンプを披露したりと、挑戦の幅も広がっています。
実際にシート部分へ足を踏み入れてみると……ふわり!
トランポリン特有の浮遊感に、大人も思わず「わっ!」と心が弾みます。この非日常の体験を車いすやバギーに乗ったまま気軽に、しかもみんなと一緒に楽しめることの価値は決して小さくないでしょう。
じつはこのタイプのトランポリン、日本でもすでに三重県の松阪農業公園ベルファーム(※)などに導入されています。お近くの方や関心のある方、一度体験してみてはいかがでしょう?
ところでこの遊具エリア。水遊び場(レポート前編)と同じく、日除けのシェードが張られているのにお気づきでしょうか。

皮膚がんの発生率が高いオーストラリアでは、紫外線による健康被害から子どもたちを守ろうと社会全体で様々な対策が取られており、遊び場の日除けもその1つ。
当方も調査で同国を訪れる度にこうしたシェードの普及を実感しますが、この傾向は徐々にアメリカなどへと広がっています。
近年、記録的な猛暑が続く日本では、熱中症予防として子どもの外遊び自体を制限する場面が増えてきました。
子どもたちの「健康」はもとより成長や発達に欠かせない「遊びの機会」もしっかり守ろうと、複合的な手段を講じる各国の姿勢を見習いたいところです。
さてここからは、円い園路の外側を見ていきましょう。
まずは「滑空する」遊びのターザンロープ!


オーストラリアで開発されたこちらのゴム製椅子型シートを当サイトで初めて紹介したのは約15年前(「海外事例」No.14)。いまや同国のインクルーシブ遊具の定番ともいえる存在となりました。
ここでは、従来型のターザンロープ(下に小さな円盤形の座面が付いたもの)と併設されているので、それぞれが好きな乗り方を選べるのはもちろん、きょうだいや友達どうしが並んで「せーの!」で勢いよく滑空し歓声を上げる姿もよく見られます。
続いては三輪車や自転車、車いすを含む車輪付きのものを存分に「乗り回す」ことができるバイクトラックエリア。


離れた2つの芝地を周回するこのコースの途中には、小さな坂、横断歩道、路面にいくつも溝を刻んだ「ガタガタ」ポイントなどの変化が設けられています。
おや、芝地の一部を切り欠いたピットのようなスポットに木の柱が立っていますね。左右に2本の黒いホースが付いたこれはいったい…?
見ていると、トラックを周回する子どもたちが時折「ちょっと待って!」とここに立ち寄り、柱からホースの先を取り外しては、自分の自転車などに差し向けて給油やタイヤの空気圧調整(の真似)!
一つのミニマルな仕掛けが、ガソリンスタンドのごっこ遊びを演出していました。
じつはオーストラリアの公園では、様々なタイプのバイクトラック(バイシクルプレイグラウンド)が増加中。近頃人気が高まっているキックボードの練習場所としても重宝され、多様な子どもたちがそれぞれの愛車でのびのびと駆け回っていました。
最後にご紹介するのは「砂遊び」エリア。
子どもが長く留まって遊ぶことが多いこの場所も、もちろんシェード付きです。

砂場は園路より一段低い位置に設けられ、そこへのアプローチとなる階段には、右側に手すりが、また各段の縁(段鼻)には滑り止めが付いています。

この階段で一つ気がかりな点を挙げると、正面(長辺)と左(短辺)の二方向で使えるようL字型をした各段のコーナー部分。
砂場で足を取られた子どもがこの直角の角に頭から倒れ込むと大きなけがを負いかねません。
これを防ぐには上にガード代わりの何かを追加したり、段から鋭い角を無くすようデザインを変更したりする方法が考えられますが、さらに多様な人が使いやすい階段をめざすなら、「2段手すりにする」「両側手すりとする」「砂に覆われにくい踏み板にする(例:細かな孔あき/メッシュ状)」などの選択肢も。
インクルージョンの視点で考えると、階段一つにもいろいろな工夫の可能性があります。
ところで階段の利用自体が難しい車いすユーザーや、触覚過敏などで砂場に入ることが苦手な子どもたちは?

桟橋のようにせり出したこちらのデッキからどうぞ!
デッキの周囲には、下から砂をくみ上げる釣瓶、砂遊びテーブル、穴から砂を流し落とすパイプなどの仕掛けがあり、多様な子どもが自分のスタイルで砂と親しめます。
また砂遊びの基地のようなこのデッキには子どもたちが自然と集まり、コミュニケーションや協力する遊びが生まれやすくなる効果もあります。
砂場の周囲に配された様々な植栽や岩も、遊びを豊かにしてくれそうですね。
砂場は感覚刺激に富み、手指の巧緻性や集中力、創造性や社会性など子どもたちが幅広い力を育める場所。
各国の設計者たちは試行錯誤を重ねながら、よりインクルーシブで魅力的な砂場のあり方を追究しています。

さあ、これで主な遊びエリアを巡りました!
登る・滑る・バランスをとる・回転する・揺れる・飛び跳ねる・滑空する・乗り回す、そして水遊びや砂遊び……。直径約50メートルの円い敷地の中に、じつに多種多様な遊びが詰まっていました。
それでいて空間全体にゆとりや調和が感じられるのは、自然の要素を巧みに織り込み、色使いや素材にもこだわった丁寧なデザインによるところが大きいでしょう。

あいにく写真がないのですが、じつは他にもみんなで乗り込んで船のように揺らせる遊具(Sway Fun®)や、バーベキュー設備を備えたパーゴラ付きの休憩所があります。
ちょうど休日だったこの日、それらの場所では複数の家族連れや友達グループがとてもくつろいだ様子でピクニックを楽しんでおり、ここが地域の幅広い人にとって心地よい居場所となっていることが伝わってきました。
多様な人々がここを楽しむ様子は、この遊び場づくりを担当したPlace Design Group社の動画でどうぞ↓
“Designing Play for Everyone(みんなのための遊びの設計)”
https://www.youtube.com/watch?v=w3X76wXNhLA
遊び場の設計に携わった方たちは動画の中で、「すべての子どもは、『遊び』の機会、『一緒に』遊ぶ機会、そしてとりわけ大切な『地元で』遊ぶ機会を持つべき」であり、「インクルーシブな遊びは、持続可能なコミュニティづくり」に他ならないと語っています。
また「遊び場のインクルージョンとは、あらゆる人にとって『安全である』、『参加できる』、『選択肢がある』、『リスクを取って挑戦できる』こと」としたうえで、「インクルーシブなデザインへの取り組みは学びの連続」であり、「自分たちが熟慮を重ねて設計した遊び場で楽しむ子どもの姿を見ると、誇らしくすべてが報われる」とも――――。

自治体、企業、慈善団体、さらに多様な住民たちが共に創りあげたこの遊び場は、個人の特性や背景を問わず誰もが歓迎され、多彩な遊びや挑戦に等しく参加でき、世代を超えたコミュニティのつながりが感じられる場です。
“Everyone Can Play”事業の成果の一つ、バラエティ・リヴィズプレイス・グレンフィールドをご紹介しました。
