
シドニーから西へ約20㎞に位置する街パラマタ。
ここで2019年にオープンしたオリーウェッブ・リザーブ・プレイグラウンドは、地域の多様な家族連れに人気のインクルーシブな遊び場です。
前回のレポート(海外事例No.37)では、エントランスからスプラッシュパッドやブランコ、トランポリンなどのエリアを順にご紹介し、奥の遊具広場までやってきました。

そこには大小2つの複合遊具が置かれていますが、いずれも滑り台がある上階デッキへのアクセスは梯子やネット、ボルダリングなどのややチャレンジングな手段に限られています。
それらの遊具とは別のアプローチで子どもたちに「滑る」遊びを提供しているのが、広場の奥に築かれた小さな土手!

勾玉のような形をしたこの土手は、尾根の部分がスロープ通路になっており、車いすや歩行器のユーザーを含め誰もが頂上までアクセスできます。近年、人気が高まっているキックボードに乗ってスロープを行く子どもの姿もちらほら。
また土手には、滑り台以外の遊び要素もあるようです。
さっそくその上り口から見ていきましょう!

まず地面に注目すると、土手のスロープ部分はアスファルトで、それ以外はゴムチップ舗装。さらに土手の斜面と広場の平らな地面とで、ゴムチップの色が異なるのもポイントです。
地表面の材質や色の使い分けは、弱視を含む視覚障害の人にとって空間認知や安全な歩行の手がかりになり得ます。
スロープは幅広で、この上り口から頂上に向かって大きく右にカーブしながら延びています。
一見するとひたすら上り坂のようですが、じつは高さ数十センチごとに水平部分(踊り場)が設けられています。これなら車いすユーザーも途中でひと休みしながら、自分のペースで坂を上ることができますね。
ただしスロープを下る際はスピードが出やすい点に注意が必要。
カーブを曲がりきれず外側の斜面へ転落する事故を防ぐため、通路の片側に柵(2段手すり付き)が設けられていました。
もしカーブの内側にも縁石などの物理的なガードがあると、車いすに乗る子どもがうっかり広場側の斜面に転がり落ちるリスクも減らせそうです。

さてスロープを上っていくと最初の踊り場にあったのが、みんなで船のような揺れを楽しめる遊具!
向かい合ったベンチの間に車いすや歩行器のユーザーも乗り込めるこのタイプの遊具は、日本のインクルーシブな遊び場にも徐々に導入されており評判です。

さらに土手を上っていくと、斜面に沿っていろいろな遊びスポットが登場!
滑り台だけでも3本ありますよ。


坂の途中にある1本目の滑り台は、両サイドが高く座位を保持しやすいタイプ。
その先の頂上エリアにある2本は、友達やきょうだいと並んで滑ることもできる幅広タイプです。大人が子どもを抱えて滑るのにも良さそうですね。
それらの滑り台の間には、大小2つのトンネルがそれぞれ土手を貫く形で設置されています。

遊具広場と土手の向こう側をつなぐ近道としてはもちろん、かくれんぼや鬼ごっこでも活躍するトンネル。子どもたちはこの中で声や音の反響を楽しんだり、友達とこもって内緒話をしたり、ごっこ遊びの基地にしたりと柔軟な使い方をしていました。
また発達障害などで感情のコントロールが苦手な子どもにとっては、こぢんまりとした空間に一旦待避して気持ちを落ち着けるためのクールダウン・スポットにもなりそうです。
ところで、トンネルの入口周辺の斜面がでこぼこしているのにお気づきでしょうか。
岩登りのような遊びを楽しむ場として、あえて不規則な凹凸がつけられました。
ここより低く緩やかな斜面には易しめのルートもあり、子どもが自分に合った登り方を選べるのも特徴です。
さらに土手の頂上エリアでは、ネット遊具の他、ボルダリングのホールドやロープを伝って斜面を登る仕掛けも。
一つの土手も工夫次第で、様々な遊びや挑戦の機会を提供できることに気づかされます。


また土手の上からの眺めは格別で、スプラッシュパッドやトランポリンのエリアまで広く見渡せる他、広場の大型複合遊具もすぐそこ!
ワクワクしながら四方を眺めるうちにいろいろと想像が膨らみます。




「もしこの土手から複合遊具に、アクセシブルな橋を架けるとしたら?」
「複合遊具のデッキ下に、インクルーシブな遊びの仕掛けを加えるなら?」
「車いすから降りることが難しい子どもも、土手の頂上エリアをより楽しめるようにするには?」
……
ユニークで意欲的な実践はしばしば、更なるアイデアの宝庫です。
今度は遊具エリアの反対側(土手の裏側)を見てみましょう。
そこには砂遊び&水遊びエリアが広がっています!


大きな日除けのシェードがある砂遊び場は、一般的な「地面の砂場」と大人の腰ほどの高さの「レイズド砂場」の2段構え。

車いすから降りることなく砂に触れられるレイズド砂場は、感覚過敏や下肢装具の装用などにより砂場に入るのが苦手な子どもにも、「立ったまま遊ぶ」という選択肢をもたらします。
壁の下部には空間が確保されているので、車いすユーザーも膝下をしっかりと入れて近づくことができますね。
ただしこの日は、縁までたっぷり入っていたはずの砂がほとんど無くなっていました。じつはこれ、レイズド砂場でよくある現象。(苦笑)
上段の砂場に上った子どたちが、中の砂を地面にどんどん落としたくなることで起こります。
対応として、砂を頻繁に補充するなどの管理が必要ですが、ここでは中央を一段と深い構造にしたことで、そこに残った砂を手前の浅い部分に移しながらなんとか遊べているようです。
続いて隣の水遊び場へ。
前回ご紹介したスプラッシュパッドは「全身ずぶ濡れで大はしゃぎ!」というタイプの遊びですが、こちらではじっくり水と触れ合う楽しさを味わえます。

右端のポンプから出た水が筧(かけひ)を伝って流れていき、2つ並んだ水盤に注ぎ落ちる仕掛け。
スタート地点のデッキが一段高いため、車いすからはポンプを操作しづらいのが難点ですが、筧や水盤はアクセスが容易で多様な子どもが水遊びに参加できます。

筧の途中には水をせき止めるレバーや、下流の2本の筧に流し分ける可動式の漏斗があり、子どもたちの間でいろいろな流し方を試したり、誰かと協力したりする遊びが自然と生まれます。

その隣には、地面に掘られた小さな水路もありました。
こちらにも途中に堰の仕掛けがある他、ポンプから出た水を溜めて水路に入って遊ぶこともできるスポットです。
ただ、あいにくこの日はどちらも水が出ない状態でした…。(筧のポンプは操作部が撤去され、水路のポンプはレバーが動かない)

公園の水遊び場では時折、器具の不具合や節水対策などにより水が止められることがあります。
それでもこうして地面が濡れているのは、誰かがバケツで他からせっせと水を運んできて遊んだのでしょう。
「砂」や「水」は、子どもにとって最も身近で恰好の遊びアイテムです。
多様な子どもたちが当たり前に一緒に遊べる「砂遊び場」&「水遊び場」が求められています。
そして最後にご紹介するのは、林エリアです。

静かで涼やかなこの場所にはいろいろな植物が繁り、落ち葉や小枝、樹皮といった遊びの小道具も豊富!
木々の間を探検しながら鳥や虫を観察したり、ここから各エリアの様子をうかがいつつ次の遊びの計画を立てたり、何もせずただのんびりと過ごしたりできるスポットです。
砂が多めで柔らかい地面は、転んでもけがをしにくいのが特徴。
一方、車いすや歩行器、ベビーカーでは走行しにくいので、もしボードウォークなどのアクセシブルな小道が一本加わると、さらに多様な人を林の散策や自然遊びに招待できそうです。

さて、これでオリーウェッブ・リザーブ・プレイグラウンドの全エリアを見て回りました!

日本の典型的な遊び場に比べると日除けやベンチ、緑が豊富で、子どもも大人もゆったりと心ゆくまで公園を楽しんでいる様子が印象的でした。
ちなみに遊び場の隣には、屋根付きのバーベキュー施設も完備!

休日に友達やご近所どうしが誘い合わせてバーベキューを楽しむことの多いオーストラリアでは、レジャーや交流の場として重宝されています。
あらためて遊び場の大まかな全体図を示すとこんな感じ↓

ここならではのユニークな土手をはじめ、多彩な楽しみ方や挑戦の機会に満ちたこの遊び場は、行政や設計者たちと、地元の非営利団体や多様な市民が意見を交わしてつくられました。
2019年の2月、様々な世代や背景の住民たちが集い遊び場のオープンを祝う様子が市の動画に収められています。
真新しい遊び場を存分に楽しむ人々からは、喜びと誇りが伝わります。
“Ollie Webb All-Abilities Playground” City of Parramatta(パラマタ市による遊び場の紹介動画)
https://www.youtube.com/watch?v=rW6-IPpksRA

この遊び場づくりで人々が目指したのは、障害がある人のための特別な場所ではなく、子どもや若者からお年寄りまで、地域のあらゆる人がコミュニティの一員として歓迎される場でした。
その後、近隣の他の公園でも、州が掲げるインクルーシブな遊び場の3原則「行ける」「遊べる」「とどまれる」を踏まえ、様々な工夫が加えられていきます。
近年、都市の再開発が進み新たな流入者も増えている注目の街パラマタが、最初に手がけたインクルーシブな遊び場のレポートをお届けしました。
・ 車いすごと乗れるのが衝撃的! 体が大きくストレッチャータイプの車いすに乗っているうちの子もみんなと乗れて感動した。
・ 車いすごと乗れる遊具は姿勢の保持などを気にする必要がないので、すごく安心して楽しめた。
・ みんなが「それーっ!」と強弱をつけて揺らしてくれた。「みんなで一緒に遊んでいる」という感じがしてすごく良かった。
・ この遊具は複数で楽しめるので、他の子も私たちと一緒に乗って遊んでくれた。地域の子どもたちと遊びを共有できたんです! すると他の親御さんが押してくれたりもする。こうしてみんなで1つの遊具で遊んだり、他の人の手を借りたりすることで、地域につながりを広げていけるのではと感じた。
(当サイト「ニーズを知る・利用者調査」内「医療的ケアが必要な子どもたちと公園」より)