皆さん、「国営公園」ってご存知でしょうか?
国(国土交通省)が設置・維持管理をしている都市公園で、例えば「岡山県」といった一つの県ではなく、都府県の区域を越えたより広い見地から作られた公園、また国家的な記念事業や日本固有の文化的資産の保存・活用のために作られた公園のことです。
(国営公園に関する詳しい情報は国土交通省のホームページでご覧になれます)
2007年現在、全国に16箇所の国営公園が開園していますが、今回ご紹介する「備北丘陵公園」は、中国地方唯一の国営公園です! 最初の整備区域が開園されたのは1995年で、その後も計画に基づいて整備を進めながら、現在も段階的に開園区域を広げています。
この公園は、中国地方の全域から利用してもらえるようにと、中国山地のほぼ中央に作られました。緑溢れる園内には、備北地方のふるさとの景観や暮らしを再現したエリア「ひばの里」や、四季折々に美しい情景が広がる「花の広場」があり、特に花が見頃を迎える春や秋には多くの人がここを訪れます。
ただ、ここは森や湖などの自然環境を生かした「丘陵公園」ですから、園内の地形は起伏に富んでいます。そのため、全ての坂道を傾斜の緩やかなバリアフリー対応にするには無理があります。しかしなるべくたくさんの人が快適に楽しめるよう、園路の設計や園内の移動手段などに、開園以後もいろいろな改善が図られてきました。
広い敷地をめぐる園路は、「歩行者用」「自転車用」「自動車用」の3種類のルートに分けられています。(公園事務所の方に伺ったところ、園内を車で通行して複数の駐車場間を移動できる国営公園は珍しいとのことでした。)またこれらのルートが交わる場所は、立体交差に変更したことで安全性が増し、それぞれの人がより安心して利用できる道になったそうです。
公園入口のビジターセンターでは、車いすやベビーカーだけでなく「電動スクーター」(左の写真)の貸出しも行っています。さらに一部のルートでは「シルバーカー」(右の写真)という8人乗りの専用車が運行しています(冬季12月~2月は運休)。いずれも無料です!
これらはお年寄りや身体の不自由な方が優先となっていますが、他に小さな子どものいる家族連れなどにも重宝されているとのことでした。
こちらは「歩行者用」の園路です。ゆったりとした幅があり、きれいに舗装された坂道が長く続きますが、歩道の脇には数十メートルごとにベンチが置かれていました。気軽に休むことができるこうしたベンチの周りは、緑の笹や、きれいに植えられた花々に囲まれていますね。
長い坂道では、歩く人はもちろん、車いすを押す人、ベビーカーを押す家族連れも休憩したくなります。(他の人に押してもらって坂を上がっている車いす利用者からも、「休憩したい」という声が聞かれました。理由は「押してくれている人がきっと大変だろうから」。)
すべてのベンチではなく、数箇所置きでも構いません。もしベンチの横に水平なゆとりのスペースが設けてあると、車いすやベビーカーも隣に並んでゆっくり休めるはずです。
こちらはこの公園で人気の高い場所の一つ、「花の広場」です。 ここには「はなの展望台」という木造の建物があり(左の写真)、ここに上がると3階のデッキから広々とした花畑を眺めることができます(右の写真)。
私たちが訪れた時、花畑はちょうど次のシーズンに向けての準備中だったのですが、それでもデッキからは畑につくられた畝の線のおもしろさを発見できたり、遠くの山々まで見渡す開放感を味わえたりと、下から眺めるのとは違う楽しみがありました。この花畑一面に菜の花やチューリップ、コスモスが咲き乱れる季節は、きっと感動的な美しさでしょう。それぞれの季節に多くのリピーターが訪れるのも納得です。
「はなの展望台」には、階段で上がるようになっています。
せっかくのこの眺め、足腰に自信のない人や車いすの人も気軽に楽しめると嬉しいですよね。もちろんエレベーターが設置できれば最高ですが、建物の構造上難しいかもしれません。そこで例えば、建物の柱に沿って長ーい潜望鏡を取り付けるというのはどうでしょう?! その潜望鏡を覗き込むと、地上にいながらにして最上階からの景色を見られてちょっとワクワク・・・。あら?発想が幼稚でしたか。
より良いアイデアを思いつかれた方は、ぜひお教え下さい。
それでは、いよいよ子どもの遊び場へ行ってみましょう。
「備北丘陵公園」にはいくつかの異なるタイプの遊び場がありますが、公園のほぼ中央に位置する広大な芝生の丘には、車いすに乗る子どもも遊べるように工夫された大型複合遊具が設置されています。
この複合遊具には、長い滑り台、急な滑り台、幅の広い滑り台など、いくつもの滑り台があり、他にもターザンロープやネットなど、じつに多様な遊具が備えられています。子どもにとっては、隅々まで探検したくなる大きな遊びの森のような場所です!
車いす利用者も、九十九折(つづらおり)の長いスロープ(左の写真)を上がるか、芝生広場脇の園路をさらに上った所から遊具を回りこむようにアプローチすれば、広いメインデッキ(右の写真)にたどりつけます。
そしてそこから幅広で長いローラー滑り台を楽しむことができます。
車いすのままアクセスできる滑り台はこの1本だけですが、なだらかな長い斜面を時間をかけて滑るので、比較的安全ですし満足感も味わえそうです。
ただ、滑り台の下は、芝、土、部分的に敷かれたゴム製のマットなどで、凸凹や段差が多い地面となっています。そのため子どもが滑り台を滑った後、誰かに運んでもらった車いすにここで乗ったとしても、そこから移動しにくい点が課題です。
芝生や土にもそれぞれの良さがありますが、車いすで通ることが想定されるルートや、車いすの子どもも利用できそうな遊具へのルートは、アクセスしやすい地表面であることが望まれます。
一方で、この大型複合遊具には、注目すべき特徴がありました。 車いす利用者をメインデッキに導く九十九折の長いスロープ。ともすれば単調な、あるいはひたすら車いすをこぐ、試練の通路になってしまいがちです。 ここに変化や楽しさを持たせるために、独自の工夫が試みられていました。
上の写真では、スロープの両脇にポールがジグザグに並んでいます。車いすをこぐ子どもにとってはちょっとしたスラローム気分を味わえるかもしれません。手すりに沿って歩く視覚に障害のある子どもや大人には少々じゃまになりそうですが、ポールはゴム製なのでひとまずけがの心配はなさそうです。床には黒いゴム素材のシートが敷かれているので車いすのタイヤが密着し、比較的こぎやすいスロープです。
上の写真の、緑のシートが敷かれたスロープをこぐと、密に織られた毛足の短いカーペットの上を進むような感覚でした。
一方こちらは、普通に板が敷き詰められたスロープですね。ただ、スロープの一部分が岩肌を模したトンネルのような屋根で覆われています。この短いトンネルにどんな効果があるのか、はっきり気付いたのはこのスロープを車いすで下りていた時でした。
カタカタカタ・・・と小さな音と振動を感じながら下りていくと、トンネルの中を通過した一瞬、その「カタカタ」が不意に大きな音で反響したのです! びっくりするやら、おかしいやら。思わずもう一度通りたくなりました。その後、緑の床も、黒い床も、それぞれ違った音と振動とともに通過。
これらはいわば車いすならではの楽しみ方なのかもしれませんが、こうしたスロープへのユニークな工夫を発展させれば、車いすに乗っていない子どもや他の障害をもつ子どもも、ともに楽しめる仕掛けにできるのではないでしょうか。
たとえば、床板を踏むと音がし、続けて踏んでいくと何かのメロディーになっているとか?
あるいは人が通過すると、手すりに並んで取り付けられたたくさんの風車が順に回り始めるとか?
他にもいろいろ楽しいアイデアが出てきそうな気がしませんか?
ただの通路を脱却して、あらゆる人が通りたくなるスロープへ!
さて。
ご紹介してきたように、中国地方唯一の国営公園は「丘陵公園」です。
また、この複合遊具がある芝生広場は、どの駐車場からも数百メートルの距離、坂道を上ったり下ったりしてようやくたどりつける場所です。
それでも今から10年以上も前、最初の開園区域の遊び場に「障害をもつ子どもも一緒に遊べる」というコンセプトをもった遊具が導入され、現在も子どもからお年寄りまで様々な人がより快適に利用できるよう改善が続けられているこの公園から、どんな環境でもあきらめることなく挑戦し、進化を続けていくことの大切さを教わったような思いです。
広島県にある「国営備北丘陵公園」をご紹介しました。