今回は、東京の昭和記念公園をご紹介します。
ここは日本を代表する国営公園のひとつで、東京駅から電車で1時間弱(新宿からは30~40分)の場所にあります。
第1期開園から25周年を迎える2008年現在、整備計画面積のおよそ9割にあたる160ヘクタールの敷地が開園しています。これは東京ドーム約35個分に相当するそうなので、頭の中で東京ドームを横に5個並べて、さらにそれらを縦に7列・・・と、とにかく広いですね。
緑が美しいこの公園は、5つのゾーン(「森」「広場」「水」「展示施設」「みどりの文化」)から構成されています。いろいろなスポーツが楽しめる「スポーツ広場」や、子どもたちに人気の大型遊具を配した「こどもの森」、また趣のある「日本庭園」などもあり、老若男女、様々な目的をもった利用者がここを訪れます。
2007年度の公園入場者数は350万人で、身体障害者の利用も年々増加しているそうです。これは昭和記念公園が約10年前からバリアフリー施策として、ハードとソフトの両面から「誰もが使いやすい公園づくり」に取り組んできた成果でもあります。
ハード面の主な整備事例としては、障害者用の駐車スペースの増設、最寄り駅からのアクセスルートや園路のバリアフリー化、多目的トイレの設置などが挙げられます。
一方、ソフト面の取り組みとして代表的なのが、「ガイドヘルプサービス」です。これは「ガイドボランティア」(事前の研修で公園の概要、園内の植物や生物、また障害者へのサポートの仕方などに関する知識や技術を身につけた方々が登録)が、利用者の希望に応じて園内を案内してくれるサービスです。
ガイドボランティアの女性にお話を伺いました。
「たとえば視覚に障害のある方をご案内する時は、周りにある木や花の種類はもちろん、その花の咲き具合はどうかなどもお伝えするよう心がけています。そのほうが、今のこの景色をより詳しくイメージしていただけるでしょう? 実際に植物に触れていただいたり、香りを嗅いでいただいたりすることもあります。お客さんから『花や緑を体いっぱいに感じられて、とても楽しかった』といった言葉をいただくと、私たちも嬉しいんですよ」
ハードとソフト。いずれも、多様な人が公園を楽しめるようにするための注目すべき取り組みですね。
続いて、子どもの遊び場に焦点を当ててみましょう。 昭和記念公園内のメインの遊び場は、「こどもの森」です。ここは、駅や駐車場のある公園入り口からはかなり離れていますが、多くの子どもたちでにぎわう人気の遊び場です。
「こどもの森」には、大型の複合遊具やネットの遊具、それに石やタイル、貝殻などを埋め込んで作られた大きなドラゴンがいる広い砂場や、「ふわふわドーム」という白い膜状の巨大なトランポリンが連なるエリアなどがあります。
「ふわふわドーム」のうちのひとつに、車いすから乗り移りやすいよう手すり付きプラットフォームの付設されたものがありますが、そのほかの遊び場は基本的に車いすでの利用は想定されていないようです。
一方、ここから1キロ近く離れた場所に、「わんぱくゆうぐひろば」という小さな遊び場があります。そこは、昭和記念公園のバリアフリー化施策の一環として、おもに小学校低学年までの子どもと障害をもつ子どもが一緒に遊べるよう、ユニバーサルデザインの考え方を取り入れて2003年にリニューアルされた遊び場です。
早速、のぞいてみましょう!
おっと、こちらの遊び場にも、膜状のトランポリン「ふわふわドーム」がありました。小さな子ども向けということでサイズや高さはやや控えめ。円くて中央がモコモコと盛り上がった目玉焼きのような形ですね。膜は地下から送られる空気の圧力で膨らんでいるそうです。
これは人気の高い遊具で、子どもたちが歓声をあげながら、この上を元気よく飛び跳ねたり、走り回ったりして遊んでいました。
ここには手すり付きのプラットフォームはありませんが、ドームの周囲(目玉焼きの縁?)の部分は垂直に立ち上がり、しっかりと安定しているので、車いすからの乗り移りも比較的容易です。ただし、空いた車いすやベビーカーは少し離れた場所に置き直した方がよいでしょう。夢中で遊んでいるほかの子どもが、もし!これらの上に倒れこんできたら危ないですからね。
ドームの周り(外側)は、落下した時の衝撃を緩衝するため、地面はゴム製の舗装がされていました。(ちなみに雨上がりなどでドームの表面が濡れていると滑りやすいので、乾くまで「フワフワドーム」は使用禁止になります)
「ふわふわドーム」の隣に目を移すと、角のない曲線的な縁石で囲われた砂場のような一角に水がたまっていました(左の写真)。
こちらは「どろんこ池」です。
「都会で暮らす子どもたちに、どろんこになって遊ぶ機会を」というねらいで作られたそうです。縁石の一部はやや高く、手すりも付いているため、ここから車いすを降りて池に入りやすくなっています。また遊んだ後に、泥だらけの体を洗えるよう、近くにシャワーコーナーもありました(右の写真)。
どろんこ池の奥には、板付きのかまぼこを上からちょっと押しつぶしたような形の、なだらかで低い小山が築かれています。その山の尾根の中央には、蛇行した細い溝が掘られていました。「どろんこ池」の水は、この水路を通って流れてくるようです。
(時期によっては水がたまっておらず、砂場状態の場合もあります。)
水路をさかのぼってみると、山の先はかまぼこの端と同様、すとんと垂直に切れていて、そこに高さの異なる2つの支柱がありました。支柱にはそれぞれ蛇口がついており、上には銀色の大きな円いボタンがあります。このボタンを押すと蛇口から水が出て、手を離すと水も止まるという仕組みです。
車いすに乗っている子どもも、山の後ろ側から支柱にアクセスして水を出せるよう、高さや形が工夫されています。
実際に押してみましょう。ボタンは軽い力で動き、「ザーッ」という音とともに勢いよく水が流れ出ました。
このボタンなら、力の弱い小さな子どもも操作できますし、手先の器用さは要求されないので、肘でだって押すことができます。例えば泥だらけになった両手をここで洗おうとして、何気なく肘でボタンを押している子どもや大人・・・意外と多いかもしれませんね。
「みんなに便利なユニバーサルデザイン(UD)」を実感できる場所です。
ところで「どろんこ池」に入って遊ぶには、ある程度の気温の高さと、着替えの服と、お母さんの許可(!?)が必要ですが、水遊びなら気軽に楽しめますし、子どもたちも大好きな遊びです。
この日も二人の兄弟がかまぼこの山に這い上がって、それぞれが蛇口から水を出しては水路の途中を堰き止めたり、葉っぱを流したりして夢中で遊んでいました。
彼らのように小山の上で遊べる子どもは、蛇口と水路の両方を使って楽しめるのですが、山の後ろ、支柱側にいる子どもは水路に手が届きません。
そこで車いすの子どもが、かまぼこ型の山の側面に回って、水路の横からアプローチしたらどうでしょう。車いすは山裾の傾斜でブロックされるので十分接近できず、尾根の中央を流れている水路はやはり遠いままです。
もし、かまぼこの山を、中央を流れる水路の幅だけ残して、両側の傾斜部分すべてを削ってしまえば、車いすの子どももみんなと同じように、水路のどこにでも自由にアクセスして遊べるようになります。
しかしそれと引き換えに、いろいろな子どもたちが斜面をよじ登って、小山の上で遊ぶ面白さは失われることになります。
また、傾斜部分の全部ではなく一箇所だけ、すとんと切り欠いて車いすの入れるスペースを作ったとしたら、そこから水路に手が届きやすくなるはずです。
しかし、ここには裸足で、あるいはどろんこで小山に登り、水浸しになって遊ぶ子どもたちもいます。全体的に低くなだらかなこの山は、彼らがもし滑って転がり落ちても大きなけがをしないためでもあるでしょう。そんな山の途中に車いすが入るための切り立った一角があると・・・ちょっと危ないかもしれませんね。
●障害のある子どもも公平に遊べる機会
●あらゆる子どもが挑戦して楽しめる場
●だれもが安心してのびのびと遊べる安全性
3つのうちのいったいどれを優先するべきか悩むところ・・・いえ、それらのすべてをできる限り叶えようと、挑戦を続けるのがユニバーサルデザイン(UD)の取り組みです。
より多くの子どもたちが楽しめる場所にまた一歩近づくための新たなアイデアが、 誰かに発見され、試してもらえる日を待っているかもしれません。 ちょうど5年前、それまでになかった新しい工夫を盛り込んだこの遊び場が、 人々の称賛の声を受けながらオープンした時のように。
さて、国営昭和記念公園の「わんぱくゆうぐひろば」には、ユニバーサルデザイン(UD)の工夫がまだまだあります。さらにここには、あらゆる子どもが(水や泥以外にも)自然に触れたり、それを活用したりしながら遊べるように、という工夫もあるのです。
続きは次回、「UD公園のヒント・国内編No.08」でご紹介します。