こぼれ話No.13 床に裸足の写真

 今から7~8年前でしょうか。SNS上に、オーストラリアから少し変わった写真が次々と流れてきたことがあります。

 それは、投稿者が自分の足を上から撮影しただけの写真。
 ただしどの足も素足で、踏みしめているのはすべて公共トイレの床でした。

 コンクリートやタイル敷きの床は、時に薄汚れ、時に濡れており、かたわらにちぎれたトイレットペーパーが落ちていたりもします。
 その固い床に置かれた足もまた、肌の色や佇まいがそれぞれ。

 鮮やかなペディキュアの足、細かなしわが刻まれた足、サンダルの日焼け跡が残る足……。
 多くは女性の足でしたが、中には男性の足や、親子と思われる大小2つの足もありました。

 それらの写真に添えられていたのは、こんな言葉です。

 「誰もトイレの床に寝かされるべきではない」

 障害のある子どもの家族や支援者たちが、おむつ交換のできる介助ベッド付きのバリアフリートイレを求めて投稿した写真でした。

 日本の公共トイレは、その先進的な機能やデザイン、清潔さにおいて世界的に有名です。
 またオストメイト(※)用設備も備えた充実のバリアフリートイレは、公共の施設をはじめショッピングセンターやレジャー施設、駅や高速道路のサービスエリアなど様々な場所に普及してきました。

 ただしその中で、「ユニバーサルシート」と呼ばれる大型の介助ベッドを備えたトイレは多くありません。
 そのため、小さなおむつ交換台やベビーベッドをサイズアウトした障害のある子どもたちや大人は、床に簡易的なシートを敷くなどしてのおむつ交換や着替えを強いられているのが現状です。

 排泄やトイレの重要性は、誰もが自分ごととしてよく理解しているはず。
 しかし公共トイレの床に寝なければならない人たちと、そこに家族や同行者を寝かさざるを得ない介助者たちが負い続けている身体的・精神的負担、そして尊厳について、どれほどの人が思いを馳せたことがあるでしょう。

 オーストラリアでは、公共のバリアフリートイレの一部に特殊な鍵による管理システムを導入。障害のある人が、大型介助ベッドや天井走行式リフトを備えたトイレを使えるよう整備が進められています。(※関連記事:「公園を知る/海外事例No.39」

 SNSで床に裸足の写真を見かけたのはほんの一時期ではありましたが、人々がこうしたトイレの必要性を理解する一助になったと思われます。

 当方のヒアリング調査でも、公園のトイレにユニバーサルシートを望む声は20年前から寄せられています。
 適切なバリアフリートイレの不足は、障害のある人の自由な外出や社会参加を阻む要因ともなる問題。
 日本でも、様々な個人や団体がユニバーサルシートの普及に向けた地道な活動を続けています。(例:NPO日本トイレ研究会「トイレマガジン」の記事『NO MORE、トイレ難民!』

 「誰もトイレの床に寝かされるべきではない」

 この言葉は、トイレの進化が著しい日本の私たちにも向けられているはずです。

(※オストメイト:病気や事故などにより腹部に人工肛門・人工膀胱を造設した人)