No.39 公園訪問inオランパーク・オーストラリア(前編)

~ドーソン・デイマー・パーク~

 当サイトでオーストラリア・ニューサウスウェールズ州の遊び場レポートを初掲載したのは2014年のこと。(海外事例No.22「公園訪問inシドニー(前編)」

 当時はまだわずかだった同州での実践ですが、“Everyone Can Play”事業の展開などにより、インクルーシブな遊び場は州全体に広がりました。

写真:アクセシブルで大型の電動回転遊具。10人近い子どもたちが乗っている。
以前ご紹介したリヴィズ・プレイスの遊び場

 今回、10年ぶりとなるシドニー調査に向けて書き溜めていた「気になる公園」の長いリストから、実際の訪問先を絞り込むうえで重視したのは、日本の遊び場づくりでヒントになりそうな工夫や特色です。

 ここドーソン・デイマー・パークの場合、注目したのは次の2点でした。

 1. 水遊び場をよりインクルーシブに
 2. 多世代の人々を歓迎できる公園に

 それぞれのポイントを、レポートの前編と後編に分けて紹介していきます。

 まずは公園が整備された背景から!

写真:似たタイプの洒落た家がずらりと建設中。
公園前の丘で建設が進む住宅地

 ドーソン・デイマー・パークがあるのは、シドニーの南西約60㎞に位置するオランパークという町です。
 かつて酪農が盛んだったこの地には、長い歴史を誇るカーレースの名サーキット場もあったのですが、2010年に閉鎖。その後、大型商業施設の進出や大規模な宅地開発が進み、町の人口は急速に拡大し始めています。

 このインクルーシブな公園がオープンしたのは2020年。
 今後も続々と移り住んでくる新たな住民たちの幅広い需要を見込んで整備されたことがうかがえます。

 公園の敷地は、カーブした道路に沿うように細長く延びています。
 この遊び場を大きく3つのゾーンに分けると、次のような感じ↓

 A)南側:遊具広場と憩いのゾーン
 B)中央:スプラッシュパッドで水遊びゾーン
 C)北側:アクティブな遊びとスポーツのゾーン

 ちなみに遊び場の西側一帯に広がる緑地は、再生された河畔林です。

写真:低木や高木が茂る緑地帯。園路の脇に草地や広いベンチ。

 ここには既存の木々に加えて、350本以上の樹木と数万の低木や下草などの在来植物が植えられたそう。それらが年々成長し、景観が変化している最中です。
 広い緑地帯には遊歩道や休憩スポットがあり、地域住民たちがジョギングやサイクリング、犬の散歩コースなどに活用しています。
 
 ただしこの日は、時折小雨がぱらつくあいにくの空模様……。
 公園を訪れる人はまばらでしたが、ひとまず写真は気兼ねなく撮れそうです。(笑)

 さっそく、南側(Aゾーン)の遊具広場から見ていきましょう!

写真:遊具広場。頭上には三角形の大きな布が何枚も張られている。

 広場には青い日除けのシェードが張られています。
 じつは完成当初、公園の日除けはすべて淡いベージュ色だったようですが、後にゾーンごとに異なる色のタープへと変更されました。おそらく一番の目的は遮光性のアップ。
 より濃い色のタープに張り替えたことで夏の日差しや熱がさらに軽減され、各ゾーンにアクセントカラーも加わりました。

 地面は、「通路」部分がコンクリートで、「遊具エリア」がゴムチップ舗装です。
 奥の一部分でウッドチップが使われているものの、「通路」と「すべての遊具」がアクセシブルな地面でつながっているのがポイントです。

写真:回転盤が地面とフラットな回転遊具。車いすが4台乗れる大きさ。
写真:アクセシブルなトランポリンが2つ。ネットが地面とほぼ同じ高さ。
写真:大人も乗れるサイズのハンモック。
写真:階段で登るシンプルな滑り台。

 遊具は車いすのまま乗り込める回転遊具やトランポリンの他、ゆったりサイズのハンモック、ささやかなブランコやクライミングネットなど。
 中にはあまりアクセシブルではない遊具(例:滑り台)もありますが、「回る」「弾む」「揺れる」…とバラエティに富んだラインナップです。

 遊具広場の南にあるのは、ピクニックテーブルを備えた屋根付き休憩所。

写真:遊具広場の奥に面した広い休憩所。階段を数段上るが、横にスロープ通路もある。
写真:さらに奥に広がる芝生エリアなど。パッシブ(静かな)パークと呼ばれる。

 その奥には芝生エリアや、木々の周りに多数のベンチが置かれたオープンスペースが広がっていました。芝生に寝転んだり木陰でくつろいだりできる他、ちょっとしたプログラムやイベントにも活用できそうな空間です。

 これらのエリアは遊具広場よりも敷地が少し高い関係で、屋根付き休憩所からは遊具で遊ぶ子どもたちの様子が見渡しやすくなっています。
 さらにこの休憩所には、無料のBBQ設備もありました!

写真:BBQ用の鉄板が2つ並んだステンレス製のコンロ台。

 こちらが、中央に2つ並んだBBQのコンロ台。プレートは電気式で、それぞれ側面のボタンを長押しすると加熱がスタートします。
 コンロ台はテーブル状で下に壁がないため、車いすユーザーも無理なくアクセスが可能。休日のBBQパーティなどで、より多様な人が“焼き職人”として腕を振るいやすいですね。

写真:ピクニックテーブル。ベンチは2人掛けと1人掛けが向き合った形。

 またコンロ台に近いピクニックテーブルは、片側のベンチに空きスペースがあるタイプでした。車いすやベビーカーのユーザーも、みんなと並んでテーブルを囲めるようにとの工夫です。

 ちなみにBBQができる同様の休憩所は、遊び場の北側ゾーンを含めて全部で3カ所ありました!
 この公園が、子どもを含む多様な家族や住民たちが自然に出会いや交流を楽しめる場をめざしていることが伝わります。

 続いて、中央の水遊び場(Bゾーン)に行ってみましょう!

写真:大がかりなスプラッシュパッド。アーチ状のトンネルやウォーターガンの仕掛けも。
写真:高さ70センチほどの柱の先端にスタートボタン。

 広々としたスプラッシュパッドには、カラフルな柱や球体、アーチのトンネルなど、数十もの仕掛けが立ち並んでいます。
 その中にあるスタートボタンを押すと、地面や柱などから次々と、変化に富んだ形で水が噴き出しました!

写真:らせん状やアーチ状など様々な形の柱や球体から水が噴き出す。
写真:地面から20センチ程高いレイズド水路。蛇行した流れの途中に水車などの仕掛け。

 こちらは日除けのシェードが張られたエリア。
 下には、蛇行した小さな水路もあります。水路は地面より少し高く、自由に動かせる水車や堰の仕掛け付き。
 水の流れを操ったり仲間と協力したりする遊びに夢中になりがちな子どもたちを、えんじ色のタープが熱中症から守っています。

 ところで、このスプラッシュパッドで特に人気らしいのが、奥の高い梁に吊られた黄色い丸型バケット。

写真:4~5メートルの高さの梁に吊られた大きなウォーターバケット。

 巨大なグレープフルーツのようなこの容器には、上から少しずつ水が注ぎ込まれています。
 最初のうちは何の変化もないのですが、しばらく待ち続けているとバケットが静かにゆっくりと傾き始め…

写真:グルンと一回転したバケットから落ちる大量の水。すぐ下の天板にぶつかり、ドーム状の滝となって豪快に降り注ぐ。

 ザッバーーーーーン!!
 ついにひっくり返った容器から、大量の水が一気に放出されました。
 滝のように流れ落ちる水の音と迫力はなかなかのもので、ここに子どもたちがいたらきっと大興奮でしょう!

 春から初秋(9月~4月)にかけて運用されているこの水遊び場。
 暑い盛りの週末などは、公園の駐車場が足りなくなるほどの来園者で賑わうそうです。

 気候変動により真夏の外遊びが難しくなった昨今、多様な子どもが気軽に水遊びを楽しめるこうしたスプラッシュパッドは、オーストラリア以外の国々でも人気が高まっています。

 ただ、じつは車いすユーザーにとってひとつ悩ましい問題が……。
 それは「車いすがずぶ濡れになると、ちょっと厄介💦」という点です。

写真:水が噴き出すアーチ状の柱を連ねたトンネル。

 座面や背もたれに用いられる布やクッション素材は、ハードな水遊びで濡れてしまうとなかなか乾きません。
 さらに電動車いすの場合、バッテリーや電子部品の深刻な水濡れは故障の原因にもなります。

 そのため車いすユーザーは、大きなビニール袋などで車いすをカバーしてみたり、あまり濡れない範囲で遠慮がちに遊んだりするケースが多いようですが、これほど充実した水遊び場です。

 「みんなと一緒にもっと思いきり楽しみたいっ!」

 その熱い想いに応える工夫が、この公園にはありました。

1.水遊び場をよりインクルーシブに

写真:水遊び場の奥にある建物。

 スプラッシュパッドに面した屋根付き休憩所の奥の建物に、オレンジ色の扉が3つ並んでいますね。
 それらの中に入っているのは、フランス製の水陸両用車いすヒッポキャンプ(Hippocampe)です。

 ヒッポキャンプは、障害のある人たちが屋外レジャーを楽しむ場で活躍している特殊な車いす。
 タイヤ部分の交換キットや、ヘッドレスト、ハーネスなどを付け替えることで、多様な人が水辺や砂浜、森林、雪上でも走行できるのが特徴で、日本を含む各国で導入されています。(例:特定非営利法人「須磨ユニバーサルビーチプロジェクト」さん

写真:3つの扉にそれぞれS,M,Lの表示。

 この公園では、鍵付きの3つの小部屋に大・中・小のヒッポキャンプを常備!
 障害のある人や移動に制限のある人が希望のサイズと利用日時を専用サイトから予約すると、扉のアクセスコードが送信され、その数字をドア横のキーパッドに入力すれば鍵が開く仕組みです。

 水濡れOKの車いすに乗り換えれば、この充実したスプラッシュパッドの楽しみ方がぐっと広がりますよね!

 ちなみに、同じ建物にあるアクセシブルなトイレ&更衣室も、鍵で管理されています。

写真:アクセシブルなトイレ&更衣室の入り口。
写真:スライド式ドアの横の壁にキーパッドと、使用中かどうかを示すライト。MLAKと書かれた鍵穴も。

 こちらの扉は、壁のキーパッドに先ほどと同じアクセスコードを入力するか、MLAK(エムラック/ Master Locksmiths Access Key)という特別な鍵を使って解錠することができます。

 MLAKとは、オーストラリアの障害のある人が申請&取得できるマスターキー。(購入費用は5~6千円ほど。自治体によっては無料も)
 同国の公共施設などにあるMLAKタイプのバリアフリートイレや更衣室、一部の駅のエレベーター、また当サイトで紹介した車いすブランコのリバティ・スイング(Liverty Swing)もこれで利用できるんですよ!

写真:車いすのまま乗り込めるブランコ。
(別公園にあるリバティ・スイング。ブランコを囲うフェンスの扉を開けたり、ブランコに乗り込んだ後にスロープを外したりする際に鍵を使う。MLAKキーの所有者は、毎回公園の管理室などで鍵を借りる必要がなく、全国の同遊具にいつでも乗れる)

 あいにく今回は、鍵を開けて内部の拝見まではできていませんが、ヒッポキャンプや更衣室の様子は、同様のサービスを提供している近隣の別公園の紹介ビデオが参考になります↓

 “Curry Reserve, Elderslie”Camden Council, NSW(カリー・リザーブ公園のアクセシビリティ紹介動画)

 
 更衣室の広々とした室内には、アクセシブルなトイレやシャワー、プライバシーを保てる折りたたみ式パーテーションの他、大人の着替えやおむつ交換も可能な大型の介助ベッド(ユニバーサルシート)があります。この介助ベッドは、電動で高さ調節が可能。利用者や介助者の負担軽減に役立っています。(※関連記事:こぼれ話No.13「床に裸足の写真」

 さらに天井には、車いすから介助ベッドやトイレ、シャワーへの移乗や移動を助ける吊り上げ式の天井走行リフトまで設置されています。
 いずれも日本の障害がある人とその家族や支援者たちが切望しているバリアフリー設備です。

 一般に海外の公共トイレは、壊れにくく掃除がしやすい簡素な設備が基本。
 そうした中でも、障害の重い人たちのニーズに応える手段としてニューサウスウェールズ州で編み出されたこのMLAKシステムは、約30年をかけてオーストラリア全土へと広がりを見せています。

 もう一つ注目したいのが、その隣にある一般のトイレ。

写真:中央に手洗い場。両側に3つずつ並んだトイレの個室。

 多様な利用者がニーズに合わせて使い分けられるよう、複数のタイプの個室が用意されていました。
 これは近年、日本でも提唱されている手法で、これまでバリアフリートイレに集中しがちだった機能を分散させ、トイレ全体のアクセシビリティの向上を図る工夫です。

 少し詳しく見てみましょう。
 6つある個室のうち、遊具広場に近い手前の2つが、シンプルなバリアフリートイレです(下の写真①)。
 ここにはゆったりとしたスペースが確保され、背もたれ付きの便器、手すり、シンクやハンドドライヤーが備わっていました。使用済みのおむつやストーマ装具(※)などが捨てられるゴミ箱も豊富です。

 またこの2つの個室は、内部の設えが左右で反転したレイアウトになっており、扉には「RH(右側)」/「LH(左側)」の表示も。障害のある人が、自分にとって使い勝手のよい配置を選べます。

(※ストーマ装具:人工肛門・人工膀胱を造設した人が使用する排泄用の装具)

写真:トイレの個室が3タイプ。①:広いバリアフリートイレ。サニタリーボックスの他、大型のゴミ箱が複数。
②:奥に細長いレイアウトのトイレ。両側の壁にL型手すり。
③:やや広いトイレ。シンク前の鏡はステンレス製で割れない。折りたたみ式のおむつ替えシートも。

 次に一般的な個室が1つ(上の写真②)。
 コンパクトなつくりですが、歩行が不安定な人などのために両側手すりや緊急呼出装置が付いていました。
 残る3つは、ベビーカーも一緒に入れる広めの個室で、子ども用のおむつ替えシート付きです(写真③)。

 ちなみにどのタイプの個室も男女共用なので、家族連れや異性介助のケース、またトランスジェンダーの人を含む多様な人々が柔軟に利用でき、「女性用トイレだけがいつも混雑…」という事態も起こりません。

 トイレ環境の充実ぶりや、水遊び用車いすの無料レンタル――――。
 せっかくのインクルーシブ公園を、誰もが快適に心ゆくまで楽しめるよう、遊具や遊び場以外にもできる工夫が多いことを再認識しました。

写真:スプラッシュパッドの遠景。

 最後に、ヒッポキャンプやMLAK対応トイレのさらに詳しい様子は、ニューサウスウェールズ州在住のJulie Jonesさんが運営するウェブサイト“Have Wheelchair Will Travel”の記事をぜひ!↓

 “Dawson-Damer Water Park, Oran Park”(Julieさんによるドーソン・デイマー・パークの記事

 じつはこの方、当サイトの前回のシドニーレポート(海外事例No.23後編)の締めくくりで、「インクルーシブな遊び場に寄せられた利用者からの声」としてコメントをご紹介したブロガーさんでもあります。

 車いすユーザーの息子を持つJulieさんは、家族で国内外の各地に出かけた経験をもとに、障害のある人の外出や旅行に役立つバリアフリー情報を、自身のサイトやSNSで積極的に発信!
 当事者ならではの視点に基づく細やかな気づきや指摘は、国を超えて多くの人々に共感と新たなインスピレーションをもたらしています。

 近年、日本でも「インクルーシブ公園に行ってみた!」といったSNSやブログ、動画がアップされるようになりました。
 多様な利用者の皆さんによるリアルで率直な声が、インクルーシブな遊具や遊び場をさらに進化させる貴重な原動力となることが期待されます。

 次回のレポート後編では、『2.多世代の人々を歓迎できる公園』に焦点を当てながら、ドーソン・デイマー・パークの北側ゾーンをご紹介します。
 どうぞお楽しみに。