No.31 公園訪問inサンノゼ・アメリカ(後編)
ロータリー・プレイガーデン カリフォルニア州サンノゼのロータリー・プレイガーデンは、2015年に社会福祉団体ロータリークラブ・サンノゼの活動百周年を記念して国際空港のそばにつくられたインクルーシブな遊び場です。
前編では、中央の円形の遊び場に配された多彩な遊具などをご紹介しました。(Googleマップで上空から見た様子はこちら)
その外側の土地は、遊び場の奥から手前のエントランス/駐車場側に向けて徐々に高くなるよう緩やかな土手が築かれています。ここに外周園路として設けられたスロープルートはCの字状で、奥の一方から上り始めると真ん中(手前エントランス側)が一番高くなって、そのまま進むと奥のもう一方へ下りてくるというわけ。
後編は遊び場の奥、このスロープの上り口へ向かうところからスタートです!
まず手前に現れたのは、円形劇場のようなスタイルの休憩エリア。
上には大きなシェードが張られています。
障害のために体温調節が困難な子どもたちもいるので、遊び場に日陰や緑陰は欠かせません。
座席部分は車いすやベビーカーのユーザーがみんなと並んで座れるよう、所々に空きスペースが設けられていますね。
一人掛けと二人掛けを選べるベンチの背もたれには寄付者のネームプレートもあり、この遊び場がさまざまな市民の協力によって実現したことを伝えています。
その先にはピクニックテーブルが置かれたエリア。
テーブルの脚は、車いすユーザーが横からアクセスしやすいようクリアランスを確保したすっきりとしたデザインです。
子どもたちが遊び疲れたらここでランチ休憩を取り、また遊び場へ! 遠足などの団体利用や、週末の家族のお出かけにも役立ちそうですね。
障害のある子どもと親にとって公園遊びは、体調の良い時を見計らい、医療機器や予備のバッテリーなど必要な荷物を整え、車いすやバギーを車に積んで…と外出自体がひと仕事の場合もあります。一度出かけたら家族でたっぷり楽しめる環境は、気持ちのゆとりにつながることも。
さあ、いよいよ弧を描いて伸びる外周園路を通り土手を上っていきましょう!
スロープは幅が広く、勾配も緩やか。
ただ長い上りが続くので、所々に水平面があると車いすユーザーも途中でひと休みができます。さらにその横へちょっとした遊具や遊び要素があれば道中が楽しくなりますし、車いすやベビーカー以外の利用者にも人気のルートになりそうですね。
さあ、頂上近くまで上ったところで、左側に脇道と紫色の半球がリズミカルに配されたエリアが現れました。
この半球は表面がゴム製で滑りにくく、子どもたちがよじ登ったり飛び石のように渡り歩いたりして楽しめます。
そしてこの先には、遊び場で一番の人気スポット、土手の斜面を利用した滑り台エリアが!
ここから脇道へ進むと低い滑り台に、外周園路をそのまま進むと高い滑り台にアクセスできるのです。
下から見た滑り台はこんな感じ!
奥の低い方が2~5才向け、階段を挟んで手前が5~12才向けで、一番手前には、友達や家族で並んで滑れる幅広の滑り台もありますね。
モルタルを磨き上げた滑り台は良く滑り、子ども達に大人気!
滑り終えた子どもはすぐさま、隣の斜面に並ぶボルダリングのホールドに手足を掛けてよじ登ったり、中央の広い階段を駆け上がったりして、飽きることなく繰り返し滑り台を楽しんでいます。
滑り台の上にあるスタート地点がこちら。
車いすからも移乗しやすいよう、一段高いプラットフォームが設けられていますね。
中央の広い階段は、子どもが滑った後に、介助者が空いた車いすを下にいる子どものもとへ運ぶルートとしても役立ちそうです。
ただ、土手の下でその車いすに乗った子どもが、もう一度滑り台の上へアクセスするには・・・いったん遊び場の奥まで回り込んで、再びあの外周スロープを上っていくことになります。
その距離約100メートル――。
斜面を這い登ることが難しい子どもや、自力で車いす移動をしたい子どもにとって(また車いすを押す介助者にとっても)、滑り台を1回滑る度にこの遠回りではもどかしいし、体力の消耗から遊びを諦めてしまうことも・・・。
物理的にも心理的にも、みんなとあまり離れることなくショートカットできるルートもあるとなお有益と思われます。
とはいえ、遊び場のてっぺんからの眺めはやはり格別。
多彩な遊びエリアと円形をモチーフとしたレイアウトのユニークさが改めて実感できます。
それにこの頂上には、他にも楽しみがありました!
じつはこれもインクルーシブな遊び場の大切なポイントの一つ。苦労して上った先にあるのがもし滑り台だけだと、それで遊べない、または遊ばない子どもにとって、せっかくの頂上ががっかりスポットになりかねませんよね。
まずこちらは、トンボや鳥などを模したアーティスティックなオブジェ。
支柱の下に付いている円盤を回すと、それぞれが羽ばたく仕掛けです!
こちらは風車。風が吹いてプロペラが回ると、支柱の中にぶら下がっている鉄球がゆっくりと上下するんですよ。「早く吹かないかなぁ~」と風を待つ時間も遊びの一つです。
さらに視覚に障害を持つ子どももこれらの仕掛けを楽しめるようにするには、音が鳴る、隣にミニサイズのオブジェがあり触れるなどの工夫も考えられそう!
またこんな背もたれ付きベンチもありました。
ん?この形、どこかで見たような……
そう、飛行機の座席です!
さらに隣の壁に付いているボタンを押すと、ベンチの後ろに据え付けられた2つのスピーカーから、飛行中の機内を思わせる「ゴーッ」という低音が流れてきました。続けて「サンノゼ国際空港、こちら○○・・」とパイロットが管制塔と通信する音声が! 淡々と高度などを伝える口調は臨場感たっぷりです。
友達や家族とこの座席に座って空を見上げれば、みんなで旅行気分を味わえそう!?
そしてまた1機、本物の飛行機が遊び場の上空を横切っていきます。
きっと機上の人たちも、美しい円形の遊び場とそこで遊ぶ子どもたちを見下ろして楽しんでいるのでしょうね。
さあ、もう一方のスロープを下りてきました。
その先には、蝶などが好む草花やハーブを植えたバタフライガーデンがあります。
この遊び場では毎週、管理を担当している公園保護団体が子ども向けの自然観察プログラム(1時間)を提供しているそうです。
住民の多様性に配慮して水曜日は英語、金曜日はスペイン語で実施。事前予約も参加費も不要で、子どもたちが幼い頃から馴染みの公園で植物や昆虫、鳥などの多様な自然環境に親しめる素敵な取り組みです。
5年前、多くの住民の協力でできたこの遊び場では、地域のあらゆる子どものための支援が今も続いているんですね。
ちなみに私たちがこの遊び場を訪れたのは2020年元日。やや肌寒い曇り空の朝でした。
撮影のために利用者の少ない時間帯に来たつもりですが、やがて親子連れが次々と訪れ、昼前には駐車場も遊び場も大にぎわいでした。
じつはこの人気の公園にはさらなる拡張計画が!
場所は円形の遊びエリアのさらに奥で、数年後の完成を目指しているそうです。
その設計に向けて、年初から春先にかけて住民参加のワークショップや公開のオンライン調査が実施されました。
オンライン調査では、事業計画の概要や候補の遊具などが図面やイメージ写真と共にネット上で詳しく紹介されていて、だれでも閲覧が可能! 都合でワークショップに参加できなかった地元住民も、遠くからお気に入りの遊び場に通う人たちも、みんなが情報を共有して希望の遊具などに投票できる仕組みでした。
想定外の新型コロナで会合などが制限される前からの取組みですが、この方法なら子どもたちや障害のある人も自分のペースでじっくりと検討して意見を寄せることができますね!
こうして幅広く住民や利用者の意見を聞いた結果、より活動的な遊びや自然遊び、さらなる日除けなどへのリクエストが多かったそうで、現在、植栽や丸太などの自然物を利用した迷路や感覚的遊びエリア、ターザンロープ(背もたれ付きシートバージョンも!)などを軸に、日除けやベンチも充実させる方向で設計が進んでいます。
子どもも大人もさらにワクワクしながら楽しめる場所になりそうで、今後に期待が高まりますね!
今回はカリフォルニア州サンノゼから、独特の立地やレイアウトの中に工夫が光り、コミュニティの結びつきや自然への親しみも感じられるインクルーシブな遊び場、ロータリー・プレイガーデンをご紹介しました。