公園を知る「海外事例」

No.32 公園訪問inパロアルト・アメリカ(前編)

マジカル・ブリッジ・プレイグラウンド

 サンフランシスコ南のベイエリア。ハイテク産業で名高い“シリコンバレー”にあるパロアルトの街に「マジカル・ブリッジ・プレイグラウンド」ができたのは2015年のことです。

写真:遊び場入り口のアーチ看板

 その頃のアメリカは、ADAAG(障害を持つアメリカ人法に基づくアクセシビリティ指針)の後押しで米国内の各メーカーによる“インクルーシブ”遊具が広く出回り、遊び場のアクセシビリティに関する一定のノウハウも共有されていました。
 おかげで遊び場の“インクルーシブ”化は以前より容易になりましたが、ただ平らな地面にお決まりの遊具をいくつか置いただけなど、パターン化された味気ない公園も増えつつありました。

 そんな中でオープンしたマジカル・ブリッジ・プレイグラウンドは、他とはひと味違う遊び場として注目を集めます。

 ここをつくったのは、重い知的障害がある娘さんを持つOlenka Villarrealさんらが立ち上げたMagical Bridge Foundation
 彼女たちは、アメリカで広がる“インクルーシブ”な遊び場が、障害者全体の1割に過ぎない車いすユーザーのアクセシビリティ対応に偏りがちな点を疑問視。独自の信念に基づいて入念な工夫を凝らし、地域社会の多様な人々を歓迎できる真のインクルーシブな遊び場を目指したのです。

写真:スロープ横の壁にカラフルなアルファベットタイルで遊び場の名称

 遊び場は評判となり、翌年には「隣町に2ヵ所目となるマジカル・ブリッジ・プレイグラウンドの整備が決定!」という発表もありました。
 海外関係者らの関心も高く、私たちも「ぜひ行ってみたい!」と思ったのですが、「せっかくなら新しい公園ができてから…」と訪問時期を見計らっていたところ、2ヵ所目の完成が延期に次ぐ延期に――。
 ついに待ちきれなくなりアメリカに渡ったのが2020年の年明け直前。結果的に新型コロナウィルス(COVID-19)の流行前だったことは幸運でした。

 ご報告が遅くなってしまいましたが、いよいよマジカル・ブリッジの遊び場リポート(前編)をお届けします!
 

 まずは、この遊び場があるミッチェル公園のご紹介を。(Googleマップで見るミッチェル公園

写真:広大な芝生広場に、凸凹した巨岩のようなアート作品
写真:近代的ながら景観になじむ色づかいやデザインの建物

 ミッチェル公園は、芝生広場や複数の遊び場、テニスコートなどを備えた大きな公園で、同じ敷地には図書館やコミュニティセンター、そして素敵なカフェもあります。
 この“Ada’s Café”は、障害を持つ子どもの母親であるKathleen Hughesさんが非営利で始めた障害者の就労支援の場でもあり、多様なスタッフが提供する健康的でおいしい料理とフレンドリーな雰囲気が人気なんですよ!

 日頃から街の幅広い世代の多様な人が集い笑顔を交わすこの公園は、インクルーシブな遊び場にふさわしい立地ですね。
 ちなみにマジカル・ブリッジの遊び場のスローガンは、“All Abilities, All Ages, All Welcome”(障害の有無を問わずどんな人も、何歳でも、みんなウェルカム)です。

 今日は気兼ねなく写真を撮れるよう、まだ人の少ない早朝にやってきた私たち。朝日を浴びながらさっそく遊び場へと向かいます!

写真:右側前方に遊び場の入り口

 水路に架かる青い橋を渡った先に「マジカル・ブリッジ・プレイグラウンド」のアーチ看板が見えてきました。
 遊び場への出入口は2ヵ所あり、もう一方はカーブした通路をこのまま下った先にあるようですが、一段高いこちらのゲートから入ってみましょう。

 扉を開けてアーチをくぐると右側に現れたのは、絵本に出てきそうな2階建てのプレイハウス!

写真:星やハート型の小窓もあるプレイハウス。メインの遊び場は土地が一段低いため、今いる園路は建物の2階と同じレベル

 色づかいやディテールが凝った外観を眺めながら園路を下り、プレイハウスの表側へ周りこんでみると、1階部分には半円形にせり出したステージがありました。

写真:建物の正面。ステージ前には弧を描くようにベンチが配置され、ささやかな野外劇場のよう

 このステージでは定期的に無料イベントが開かれています。
 年代も立場も異なる地域のボランティアたちが、それぞれ音楽やダンス、絵本の読み聞かせ、手品…と多彩なプログラムを提供していて、それを楽しみに訪れる子どもたちも多いそう。
 子どもと大人の双方にとってコミュニティのつながりを感じられる場所ですね。

 客席側には、リアルな擬木のベンチが間隔を空けて配置されています。

写真:客席後方に複数のテーブル席。他に高い背もたれが付いた1人掛けの木製チェアがいくつも

 他にも固定式のテーブル&ベンチ(車いすユーザーのためのスペース付き)や、ゆったりくつろげて移動も可能なアディロンダック・チェアが多数。
 だれもが自分の好きなスタイルで、家族や友達と一緒にイベントを楽しんだり休憩したりできる空間です。
 きっと暑さの厳しい夏場も、大きな樫の木々が涼やかな緑陰をもたらしてくれるでしょう。
 

写真:1本の木を抱く楕円形のレイズド花壇。その回りに環状園路

 そのまま園路に沿って進むと、中央に楕円形の島が現れました。
 主要な遊びエリアは、この島を取り囲むように配置されています。つまりここは、遊び場全体のハブ的なスポット。
 島の縁は座りやすい高さのベンチ状になっており、ここに腰掛ければかなりの遊びエリアが見渡せるため、子どもを見守る場としても役立ちそうです。
 

 各エリアは遊びのタイプごとに分けられ、知的障害を持つ子どもを含む多様な利用者が理解しやすいレイアウトが目指されました。

 遊びエリアの入り口には、それぞれに色分けされた案内板コーナーがあります。
 このコーナーは車いすユーザーも見やすい高さや角度が考慮され、手を置きやすい位置にあるエリア名パネルは凸文字&点字表記付き。

写真:縦横約50センチ、高さ90センチほどの四角柱の側面と傾斜した上面に案内パネル
写真:エリア名のパネルはコントラストの効いた凸文字と点字。その上にメインの案内パネル

 その上のメインパネルに書かれた文章はおもに大人向けで、一般的な注意事項の他に、それぞれのエリアと遊具の特徴や工夫の意図などが、写真と共に紹介されています。
 ちなみに、スマホのアプリ「Seeing AI」を介してこれらのパネルにカメラを向けてみると、文字が概ね正確に読み上げられました(※英語の場合)。視覚に障害がある人への音声情報の提供にも役立っていそうです。
 

 それでは遊びエリアを一つずつ見ていきましょう!

 まずは、回るタイプの遊具を集めた「スピニング・ゾーン」。
 「回転を伴う遊び」は子どもたちに人気が高く、バランス能力に関わる前庭覚をはじめ様々な感覚刺激になるとして、インクルーシブな遊び場でも積極的に取り入れられます。

写真:ゆったりと配置された各種の回転遊具

 ここでは、車いすのまま乗り込める回転遊具(「海外事例No.14」)や、軸が傾いた大きなディスクタイプの遊具、ネットクライムも兼ねた円錐形のものなど、ヨーロッパ製を中心に全部で5種類の回転遊具がありました。
 座ったり寝転んだりよじ登ったり、一人でもみんなと一緒でも、それぞれの遊び方や挑戦レベルを選べますね。

写真:エリアと通路は、フェンスやベンチ代わりの縁石で緩やかに区切られている。
写真:ネットクライム付きの円錐形回転遊具

 遊びエリアの地面は、基本的にゴムチップ舗装です。
 砂や芝生、ウッドチップと比べてアクセシブルなのはもちろん、土の地面と違って衝撃吸収性があるので、遊んでいる最中に転んだり遊具から落ちたりした子どもも、すぐに立ち直って遊びに復帰する姿がよく見られます。
 

 続いてこちらは、揺れる遊具を集めた「スイング&スウェイ・ゾーン」。

写真:2つ並んだ皿型ブランコ
写真:6つ並んだ背もたれ付きブランコ。ジェットコースターの安全バーのような跳ね上げ式のハーネス付き

 多様な子どもに人気の皿型ブランコや、高い背もたれ&ハーネス付きのブランコがずらり! (一般的な平板型やベルトシートタイプ、幼児用のバケットタイプのブランコもあると選択肢がさらに増えそう)

写真:船のように揺れる遊具スウェイファン。両側にべンチ席があり、中央は車いすが2台ほど乗れるスペース

 車いすユーザーを含め子ども大人も一緒に乗り込んで、船のように揺らせる人気の遊具(「海外事例No.05」)もありますよ。

 スローガンに「All Ages(何歳でも)」とある通り、「大人にとっても遊びは大切」というのもマジカル・ブリッジの信念の一つ!
 実際に、地元の高齢者施設の方もここがお気に入りで、定期的に訪れては楽しんでいかれる利用者さんもいるそうです。

写真:スウェイファンに乗り込むためのスロープ

 ちなみに障害のある子どもの中には、ある程度年齢が高くなっても遊具で遊ぶのが大好きな子どもがいます。
 でも日本の保護者の方たちに聞くと、「体の大きな子を遊ばせていると周りから冷たい視線を浴びたり迷惑がられたりするので、『公園に行っちゃダメよ』と止めている」というケースがしばしば。
 しかしそれでは「様々な遊びに挑戦したり人と関わったりする機会が持てない」「子どもにストレスが溜まって行動や生活リズムに乱れが…」「運動不足から肥満に…」といった問題も起きやすく、「本当は気兼ねなく遊ばせたいのだけど…」とジレンマを抱えておられます。

 同じ悩みを持つ親子はアメリカにも多く、「子どもからお年寄りまで多様な人が入り交じって遊べる」マジカル・ブリッジの公園は、こうした人たちにとっても嬉しい場所となっています。
 

 続いてこちらは「ミュージックゾーン」。

写真:幅3メートルほどのスペースの両側に支柱があり、頭上に金属製のアーチが架かっている。

 といっても特に楽器らしい遊具はなく、あるのはアーチ状の構造物のみ……!?
 じつは、これこそが音を奏でるユニークな仕掛けなんです!

 名前は「マジカル・ハープ」。
 頭上の梁から地面に向けて24本のレーザーが出ており、アーチの下を人が通るなどしてそれが遮られると、スピーカーから穏やかなハープの音が響きます。

写真:支柱の上部や梁にスピーカー

 つまり特別なスキルや動作は一切不要で、一人ひとりの存在自体が音を奏でるというわけ!
 これまで楽器を演奏することが難しかった重い障害のある子どもはもちろん多様な人が、その不思議な感覚を体験したりみんなと共有したりしたくなる遊具です。
 心地よい音色とそれを楽しむ人々の様子を、マジカル・ハープの開発者であるJen Lewin Studioの動画でどうぞ。
 

 そしてこちらのエリアは、幼い子どものための「トット・ゾーン」。

写真:直径10メートル程の円形の遊び場にある遊具やベンチ
写真:金属製パイプが縦に並んだ楽器遊具

 乗って揺れたり、つかまり立ちでいろいろなものに触れたりする小ぶりの遊具や、金属製のチューブを叩いて鳴らせる楽器遊具もあります。
 地元の保護者たちからは、「よちよち歩きの子を遊ばせられる公園って少ないから、ここは貴重!」「うちはきょうだいの年が離れてるけど、この公園に来ればみんな満足できる」と評判のようですよ。

写真:エリアの片隅が高さ60センチほど高くなっており、その斜面にポールや滑り台

 そのエリアの奥にあったのは小さな丘と、友達とも並んで楽しめる2連の滑り台。
 頂上へのアクセスは、金属製のポールやアーチを伝ったりくぐったりして登れる斜面の他、右側から回り込むスロープルートもあります。
 子どもがそれぞれスモールステップで挑戦し、達成感を味わえる場所ですね。

写真:遊びエリアのベースカラーは水色と黄緑

 こちらが丘の上からの眺め。
 全体的に派手さや幼稚さが避けられた、明るく落ち着きのある色づかいです。
 ただ、ポールや支柱が地面と同じ水色なので、特に弱視の子どもにとっては認識しにくくぶつかる危険も。少しトーンを変えるだけで見分けやすくなりそうですね。
 

 さあ、これでマジカル・ブリッジの遊び場の半分以上を巡りました!
 もう一方のゲートがあったので、いったん外へ出てみましょう。

写真:出入口。高さ1メートルほどの柵と片開きのゲート

 遊び場の外周は見通しの良い柵で囲われており、出入口はレバー式の扉です。(もう一方の出入口にも同様の扉)
 操作が容易で幅もゆったり。車いすユーザーや双子用のベビーカーも楽に通過できますね。

写真:エントリー広場。ハーブの植え込みの中に背の高いモニュメント

 その先にはささやかなエントリー広場があります。
 こうしたスペースは、発達障害などで初めての場所が苦手な子どもを含め、「まず中の様子を観察してから遊び場に入るかどうかを決めたい」という利用者にとって有益です。

 中央には、風を受けて「KIND/優しさ」「PRIDE/プライド」「JOY/喜び」などのプレートが回るモニュメント。
 壁にはマジカル・ブリッジ・プレイグラウンドの名称と共に「Where Everyone Can Play/みんなが遊べる場所」という言葉。
 それらが、このインクルーシブな遊び場を訪れる人々へのさりげないメッセージとなっています。

写真:入口のアーチ看板。車いすユーザーを含む5人の人型のカラフルなシンボル付き

 さて、今回のリポートはここまで。
 地域のあらゆる人を歓迎できる真のインクルーシブな遊び場を目指したマジカル・ブリッジ・チームの熱意と細やかな心配りを感じていただけたでしょうか。

 次回は、冒頭に登場したプレイハウスと、この遊び場でもっとも特徴的な築山、そしてここをつくったOlenka Villarrealさんに伺ったお話もご紹介します。

 どうぞお楽しみに!