アメリカの司法省が採択したアクセシブルデザインのためのADA新基準(2010 ADA Standards for Accessible design)が、2012年3月15日から全面的に施行されます。これにより、以後ADAの下に新設または改築される遊び場がこの基準への適合義務を負うことになりました。
基準は、アクセス委員会(Access Board)が発表した改訂版ADAAG(2004 ADA Accessibility Guidelines)等をもとにしています。「遊び場のADAAG」は、障害のある子どもの遊ぶ権利を保障するために公園や遊具をどう設計するべきか、その最低条件を詳述したアクセシビリティの指針です。指針の内容を見ていくと、ADAAGが原点に置いたであろう「遊び場の主役」の姿をうかがうことができます。おそらく指針の策定作業は、「障害のある子どもはどう遊びたいのか」、「社会は子どもたちにどう成長してほしいのか」に迫る過程だったはずです。
例えば、短い傾斜路でデッキをつなぎ複合遊具を小刻みに上がれるようにするスロープの規定、車いすから遊具に乗り移りやすくするためのシートの高さ指定や支持具(つかまりバー等)の設置規定などは、障害のある子どもを一律に介助される立場に置くのではなく、それぞれが持てる力を発揮し、できるだけ自立して自分で遊べるようにするためのものといえます。
また車いすから複合遊具に乗り移って遊ぶ場所では、『移乗場所からデッキ上の遊具までの距離をできるだけ短くすること』といった記述があります。これは子どもが階段などの「移動」で体力を過度に消耗することなく、メインとなる「遊び体験」を存分に楽しめるようにするためです。
一方で、ブランコやスプリング遊具などの地面に設置される複数のアクセシブルな遊具は、『遊び場全体に分散し、かつ他の遊具と統合されていなければならない』という項目があり、障害児が利用できる遊具を1箇所にまとめてグループ化することを明確に禁じています。これは障害の有無によって子どもが分離される事態を防ぐためです。背もたれ付きブランコなら一般のブランコエリアに、砂遊びテーブルならみんなと同じ砂場にある方が、子どもたちの間で交流が生まれやすいはずです。
ADAAGが目指しているのは、障害のある子どもが他の子どもと同様に、多様な遊びを通して楽しみながら力を伸ばし、あらゆる子どもが自然に関わりを広げられる環境です。もちろん「越えるべき最低基準」という性質上、限界も併せ持ってはいますが、各地域では自治体やNPO、市民グループ等によって、この基準を大きく上回るインクルーシブな遊び場づくりも展開されるようになってきています。
幼い時からこうした理念の下に築かれた環境でともに遊び、学び、社会性を身につけた子どもたちは、将来どんな大人に成長するでしょう。彼らが築くのはきっと、障害者が持てる能力を発揮し当たり前に社会参加できる、より公平でインクルーシブなコミュニティだろうと予感させます。
公園の遊び場に関する施策や取り組みが向き合っているは、「今を生きる子どもたち」であり、その「地域社会の未来像」でもあります。