視覚障害のある親たちと公園
「かるがもの会」さんの声「かるがもの会」は、視覚に障害を持ち子育てをしている親御さんたちとその家族による育児サークルです。1991年に、視覚障害のある親同士の情報交換と仲間づくりを目的に設立されました。現在、全国に70以上の会員家族がおられ、メーリングリストや、電話会議システムを利用した気軽なおしゃべりの場などを通じて、子育ての工夫や悩み、生活や福祉に関する情報を共有しながら、「みんなで楽しい子育て」をめざして交流しておられます。
代表の菊地美由紀さんは2022年、NHKのEテレ番組「バリバラ 『見えないパパ・ママの子育て ~あるある編~』」の収録で、都立砧公園のインクルーシブな遊び場「みんなのひろば」を訪問されました。後日、会員の皆さんと共有された公園レポートの内容に加え、見えない・見えにくい保護者の立場から率直な気づきやご意見などを教えていただきました。
先日、最近増え始めたインクルーシブ公園について、「視覚に障害のある親が子どもを遊ばせる観点から、一般的な児童公園と何が違うか、率直な意見を聞きたい」という番組の企画で、4才の娘と、同じく視覚に障害を持つ友人親子と一緒に、砧公園「みんなのひろば」を訪れました。
「インクルーシブ」公園という目の付け所がとても斬新で、ワクワクして伺いました。
1.「みんなのひろば」について
(以下、○は「遊び場での気づきや感想」、★は「改善に向けた意見や願い」の項目)
<立地>
○電車だと、最寄り駅から公園までが徒歩で約20分と遠い。(←一般的なアクセスルート。他に駅からバスを使う別ルートも)
○公園自体の敷地も広くて、遊び場までなかなかたどりつけない。(正門から200メートル以上)
都立砧公園のサイトより園内マップ
★視覚障害を持つ親が子どもを遊ばせやすい環境として、まずは公園自体がアクセスの良い場所にあること、そして公園の出入口と遊び場が近いことが条件となります。
<柵に囲まれている>
○遊び場は全体がフェンス状の柵に囲まれていて、その柵の一部が開閉できる門になっている。
○この柵があることで、子どもが遊び場から大通りに飛び出してしまったり、外から急にボールが入って来たりする心配がない。
○弱視の子どもたちの意見を参考に、門と柵の色のコントラストをはっきりさせ、見た目で区別が付くよう配慮されていた。
★全盲の親にとっては出入口のある方向がわからなくなるため、門のそばに風鈴をぶら下げたり、誘導音を付けていただくなどして、どこにいても音で方向がわかるようになるとなおありがたいです。
(↑後日、鈴がぶら下げられました)
<地面の素材がいろいろ>
○遊具付近はやわらかいゴムチップ舗装になっていて、子どもがずりばいしても転んでも危なくない。
○園路はアスファルトになっていて、足ざわりで遊具エリアと区別ができる。
○芝生や土もほどほどにあって、どんぐりが落ちているなど自然も感じられた。
★アスファルトの園路は真ん中にも延びているのですが、これがS字状にクネクネと曲がっていく仕組みになっていたので、だんだん方向感覚を失う心配があります。できれば直角がいいな!碁盤の目のように。
★地面の素材の使い分けはありがたい一方で、芝生とゴムチップ舗装やアスファルトの境目が急に来て、たまに段差につまづきそうにもなりました。きっともっとたくさん通って慣れていけば感覚がつかめるのかもしれませんが…。
<遊具の工夫>
○遊具もベンチもフェンスも、みなとてもきれいな状態で保たれていました! 管理が行き届いているのでしょう。それらを触って位置や形を確認する時、泥もほこりも手に付いてこないのがとてもありがたかった!
○二人で並んで座って滑れる滑り台が最高に楽しい! しかも階段やスロープ、好きな方法で上がっていくことができ、大人も十分に通れる幅なので、子どもの横に付いたりすぐ後ろに付いて安全確保ができる。抱っこしたままでも十分滑れる仕様になっていた。思い切りスピードが出て尻もちをついたけれど、地面がゴムチップ舗装だったので衝撃がほとんどなく、とても安全に遊ぶことができる。
○「スプリングシーソー」というベンチ型シーソーも最高! 二人乗りのベンチが向かい合っていて、どちらかに人が座っても体重で大きく傾くことはなく、ゆっくり座ることができる。お腹の前には太いバーがあって、そこにつかまりながらお尻と腕を使って揺らすことで、どんどん揺れが激しくなる! 子どもは大喜び!
○幅の広い鍵盤ピアノがあって、車いすに乗った子が遊べる高さの鍵盤と、ヨチヨチ歩きの子でも届く鍵盤とが設置されていた。音は鉄琴のような音色。ハンドベルのように音の担当を割り振って遊ぶことができて楽しい! この音があることで、じつは私たちも空間認知をしやすくなる。迷子になりそうになっても、ピアノで遊んでいてくれる子たちがいさえすれば、方向感覚を取り戻すことができる。
※まだまだ触れなかった遊具はたくさんありました。
<休憩所がたくさん!>
○いろんな背の高さの方が座れるベンチとテーブルがあちらこちらに設置してあり、疲れた時にはそこで休憩したり、子どもを待っている時にはのんびりくつろげる。
★歩いているといきなり膝の高さでベンチが現れ、激突することになってしまうので、こんな所にも足ざわりの違う素材で「もうすぐベンチがあります」のような合図を作っていただけたら嬉しいです。
2.課題
<空間認知のために>
★視覚に障害を持つ私たちは、公園の中の様子を頭の中にマッピングして、遊具がどんな形か、どこにあるのか、どれくらい安全か、出入口はどこか、水道やお手洗いはどこか…、こういった情報を先に教えていただき、頭に入れる必要があります。
そのためには、例えば
①遊び場に公園スタッフやボランティアさんがいてくださるならば、ディズニーのキャストさんのようにあちこちに立って見守っていていただけると安心であること
②あるいは両手に抱えきれるくらいの公園の全体模型や遊具の模型も作ってほしいこと
③言葉の道案内で、公園内をクロックポジションで説明(物の位置や方向を時計の針にたとえて言葉で伝える)していただけるとありがたいこと
④グーグルレンズのようなアプリで床や遊具に埋め込まれたチップを読み取るなど、スマホアプリの活用で位置関係を把握できるようにすること
などの工夫があると、より安全に遊べるようになります。
<人の声かけや関わりを!>
★何より大切なのは、その場にいる人たちの「声かけ」です。
・挨拶し合える関係
・よく来る顔見知りであれば「久しぶり」と声をかけてもらえる雰囲気
・「ブランコ空いてますよ」
・「前に一人並んでます」
・「次どうぞ」
・「ブランコかーしーてー」
・「次に空くまで待ってようね」
そんな声かけを、自分の親子の中でも、見知らぬママ・パパ同士、子どもたち同士でも、気軽に楽しくし合うことができていったなら、ハード面、ソフト面、両方からより安心で安全な公園となっていくのではないでしょうか。
「みんなのひろば」は、一般の児童公園よりも親子がたくさんいて、見守ってくれているようなそんな雰囲気は感じられましたが、まだまだ声かけについてはバリアも感じる、そこが少し残念でした。
究極の希望としては、常に見守っていてくれるスタッフやシッターやヘルパーや友人、そういった人の目があること。そしてその眼差しは子どもたちだけでなく親の私たちにも向けられ、気を配っていただけたら、それが正直な願いです。
3.感想
当日、公園を案内してくださったガイドさんから聞いた、「『誰もが楽しく遊べる』といっても課題が山積している。けれど、みんなの意見を吸い上げ、みんなで育てていくことを大切にした公園なんです」というお話がとても印象的でした。
今は「インクルーシブ」といっても、おもに車いすユーザーなどのお子さんのニーズに合わせた設計の公園が多いようで、正直なところ、視覚障害を持つ親向けとは言えません。
もっと私たちが感じる課題も、ぜひみなさんに吸い上げていっていただけたら嬉しいです。
そのためには私たちも、まず「こんな公園があってね」と周囲に伝えて、広めていくことが大切。そこからだんだんと民間や行政などが動き出してくださったり、地元の公園でも少しずつこういったアイディアを取り入れていただけるかもしれない…、そんな期待を抱いています。
まだまだ都内でも数が少ないというインクルーシブ公園。
ぜひ全国に公園そのものが整備されるのはもちろんのこと、コンセプトへの理解がどんどん広まっていきますように!
(貴重なご意見をありがとうございます)