ワシントン州シアトルの南にあるオーバーン市のUD公園、ディスカバリー・プレイグラウンド。
前編のレポートでは、遊び場の外周に設けられた主要園路を反時計回りに半分ほど巡り、土地の高低差を利用した築山(上の写真奥)の裏側まで上ってきました。
ちなみに築山は州の名峰マウント・レーニアに、またそこまでの園路は町を流れ下る2本の川の一つ、ホワイト・リバーに見立てられています。
ここからさらに左へ回り込み、今度はグリーン・リバー側の園路を進んでいきましょう。
さっそく左手に、築山の黄色い滑り台へアクセスできる「スロープ」ルートを発見!(ホワイト・リバー側は「階段」ルートでした)
そしてこちらが山の頂上!
滑り台のスタート地点です。 車いすから乗り移りやすいよう、プラットフォームが一段高くなっていますね。幼児や歩行が不安定な子どもには、右側の手すり付き階段が便利。プラットフォームが広いので、大人が子どもの移乗や歩行を介助する際にもゆとりがあります。
またアクセシブルな滑り台が「2本」というのも嬉しいポイントです。
もし1本だけだと、プラットフォームへの乗り移りや滑る準備に時間を要する子どもが、後ろから他の子どもに急かされたり押しのけられたりすることが起こりがち。滑り台が複数あることで多様な子どもがそれぞれのペースで楽しめる上、きょうだいや友達と並んで「せーの!」で滑る面白さもありますよね。
この山の頂上からは遊び場全体がよく見渡せます。
下をのぞくと、おっと、かなり急な斜面! 車いすや歩行器、ベビーカーのユーザーが不意に転落するのを防ぐため、縁に沿ってかまぼこ状の突起が設けられていました。さらにこの縁石のような部分を地面と異なる色にすれば、弱視の子どもも斜面との境界を認識しやすく、より安全に遊べそうです。
続いて園路に戻り築山を下った先にあったのは、アート作品のようなたたずまいのチャイム。近年、アメリカのUD公園で人気の楽器系遊具メーカーによるもので、音色もとてもきれいです。(Freenotes Harmony Park社のサンプル動画)
ちなみに音がドレミファの順に並んでいないのは、弾き間違いなどを気にせずあらゆる人にもっと自由に音楽を楽しんでほしいからだそう。誰がどんなふうに叩いても穏やかで美しい響きが公園を優しく包んでくれます。
続いてこちらは、2本の伝声管の間に丸太(擬木)と本物の岩を配したバランス遊びエリア。 そういえばこの遊び場、築山や園路の脇などあちこちに岩が置かれていますよね。全部で十数種類、170トンにもなるこれらの岩は、人工的になりがちな遊び場の雰囲気を豊かにするだけでなく、子どもたちが飛び乗って遊んだり、大人が腰かけて子どもを見守ったり、荷物の置き場になったりと幅広く活躍中!
特徴的な岩には、その種類(「堆積岩」「変成岩」「粘板岩」など)を明記したブロンズ製の円いプレートも付いています。
総額数百万円の価値があるというこれらの岩、じつは地元のとある施工業者が約100km離れた山の採石場で買い付けて自らトラックで運び、わずかな輸送費だけを受け取って市に寄贈したものだそう!
当時、遊び場の整備計画を発表した市役所には、企業や個人から協力を申し出る電話が連日のように入ったといいます。その内容は、お金や物資の寄付から得意分野を活かした無償の技術提供、子どもたちによる募金活動までさまざま――
この公園づくりを多くの地域住民が歓迎し、率先して参加したことがうかがわれます。
さらに園路を進むと人工芝の小さな丘。
斜面には、みんなで寝転んだり登ったりできるネット遊具があります。
こちらは園路の外側に設けられた屋根付きのピクニックエリア。
近くに簡単な備え付けグリルもあり、先ほどからお父さんがせっせと荷物を運んでバーベキューの準備中です。
その先にはこんなスポットも。
アメリカン・インディアンのテント「ティピー」を模したオブジェです。
柱を固定する金具には装飾が施され、中央の地面に東西南北を示すコンパスが刻まれていました。
市の南部がインディアンの居留地にもなっているオーバーン市。かつてこの地で鮭などを獲って暮らしていた先住民の歴史を思い起こさせるこのスポットは、子どもたちにとって格好の基地やごっこ遊びの舞台になりそうです。
続いて見つけたのは、音の高さが異なる6本の円柱状ドラム。
車いすユーザーも左右に手が届きやすいよう、一直線ではなくややカーブして並んでいるのですね。さらにドラムの奥にもスペースがあれば、複数の子どもが向かい合って演奏できいっそう盛り上がれそう!
おや、周りの地面にたくさん転がっているのは……木の実!? どうやら隣の大木から落ちたもののようです。
それらを拾い集めてドラムの上から落としてみると、ポン、ポ、ポン…と軽くて柔らかな音がしました。遊び心が感じられる配置ですね。
じつはこの遊び場、他にもプロペラのような形の実が回転しながら落ちるカエデの大木や、紫の花や白い綿毛をつける草花など多彩な植物に出会えます。(植栽の陰からひょいとリスが出てくることも!)
こちらは本物の「石」を算盤玉のように並べた遊具。
既製品の遊具でおなじみのプラスチックの球体と違って、色、形、手触り、重みが一つ一つ違います。子どもたちが指を挟んでけがをしないよう、石と石の間には黒いクッションリングが付いていました。
最後にやってきたのは砂遊び・水遊びコーナー。
枠で囲われた砂場は日本でよく見かけるタイプですね。
ここに砂遊びテーブルが一つあれば、車いすユーザーも地面に降りることなく遊びに参加でき、さらにインクルーシブな空間になりそう。
その奥には、両岸に大小の岩が配された渓流のような水遊び場。途中に水を堰き止められるダムのような仕掛けもあります。
砂場と同じく車いすや歩行器のままアクセスできないのが残念ですが、あれ、水がない?
本来ならいちばん上流に置かれた大きな岩の隣に手押しポンプがあるはずでしたが、この日は取り外されていました。このところ日照り続きで節水のために水遊びは隣接するスプラッシュ・パッドに任せたのか、あるいはメンテナンス上の問題かもしれません。
というのも遊び場の完成当初は、この水遊び場と砂場を隔てている黒い柵はありませんでした。子どもたちはここを自由に行き来し、水と砂を思いのままに使って遊びを展開していたのです。
しかし川に大量の砂が持ち込まれたことでおそらく排水の管理等に支障をきたしたのでしょう。黒い柵の看板には「保護者の皆様へ」として、水遊び場を機能させるため子どもたちが川に砂を持ち込むのを控えるよう協力を求める文章が書かれていました。
水と砂――それぞれに楽しめる素材ですが、混ぜると遊びの幅が劇的に広がるため、この二つの遊び場をどう共存させるか、多くのUD公園で試行錯誤が続いています。
さあ、これで遊び場を一周しました!
2010年、人口約7万人の小都市オーバーンにできたディスカバリー・プレイグラウンドは、特に名の知れた公園ではなく、遊具カタログの見開きを飾るような大掛かりで高価な複合遊具もありません。
しかしすべての子どもが多様な力を伸ばし、豊かな感覚を養い、人との関わりを広げながら郷土と自然に親しめるよう、ここならではの工夫がさりげなく凝らされた場所でした。
もう一つのポイントは立地です。
この公園は、図書館や町の歴史博物館、集会場などの施設が集約された場所にあるのです。
こちらのコミュニティ・アンド・イベントセンターもその一つ。外壁には大きなウォール・クライミングの練習場、中には若者や大人のためのちょっとしたジムやスポーツ用の部屋もあります。
その隣にはこんなエリアも!
これは「ボッチ」という競技用のコート。
近年、障害のある人も楽しめるパラ・スポーツとして日本でも認知度が高まっている「ボッチャ」の起源となるボールゲームです。
ちょうどここを利用中だった高齢のご夫婦にお話を伺うと…
「いいかい、ボッチってのはね、子どもから私たちのようなシニア世代まで一緒に楽しめるスポーツなんだ」
「そうそう。どの州にも愛好者がたくさんいてね、全米大会だってあるのよ」
そうにこやかに教えてくれたお二人はこの公園がお気に入りで、毎日のように通って来られるのだそう。彼女たちだけではありません。
遊び場では子どもたちが歓声を上げ、家族連れがピクニックを楽しみ、若者やお年寄りがスポーツや散策のついでに顔見知りとあいさつを交わしたり木陰でおしゃべりをしながらくつろいだりする姿が見られました。
誰も置き去りにせずあらゆる人を受け入れるこの公園は、地域の人々が自然に集まり緩やかにつながる交流の場なのです。
「ねぇ、あなたたちも引っ越してくる? ここはとってもいい町よ」
奥さんの眼差しの奥に、自信と誇りが感じられました。
かつてウィンストン・チャーチルは、第二次大戦で破壊されたイギリス国会議事堂の再建に際し、こんな言葉を残しています。
「We shape our buildings, and afterwards our buildings shape us.
/私たちが建物を形づくる。すると後にその建物が私たちを形づくる」
それは次のように言い換えられるかもしれません。
「町がインクルーシブな公園をつくる。すると後に公園がインクルーシブな町をつくる」
オーバーン市の人口は増加を続けており、今年(2019年)、8万5千人に迫る見込みだそうです。
地域に根差したオリジナルなUD公園、ディスカバリー・プレイグラウンドをご紹介しました。